ニュース速報

ワールド

アングル:バイデン氏「アドリブ発言」、失言と断定できない理由

2022年10月01日(土)08時38分

9月27日、バイデン米大統領は、これまで非常に印象的な幾つかの「アドリブ発言」を行ってきた。写真は12日、メリーランド州のアンドリュース基地で取材に応じるバイデン氏(2022年 ロイター/Kevin Lamarque)

[ワシントン 27日 ロイター] - バイデン米大統領は、これまで非常に印象的な幾つかの「アドリブ発言」を行ってきた。

中国が侵攻した場合に米軍が台湾を守るのかと聞かれると「そうだ」と答え、ロシアのプーチン大統領を「人殺し」と呼んで「権力の座にとどまってはならない」と断言。新型コロナウイルスのパンデミックは「終わった」と宣言した。

これらの言い回しについてワシントンの政界では、バイデン氏の「失言」と問題視される傾向がある。だが、実際にはそうでないことも多い。

表面上は見えないバイデン氏の本当の考えをさらけ出し、時には政権の方針を探る上で、ジャンピエール大統領報道官や重要閣僚らの公式発言よりも、ずっと適切な手掛かりを国民に示してくれるのだ。

図らずもバイデン氏自身が今月、鉄鋼労働者向けの演説でこう語っている。「私が何を言っているか、誰も疑問を持ったことなどない。問題なのは時折、私が言いたいことを全部言ってしまうことにある」──と。

もちろんバイデン氏のアドリブ発言は外交面で非常に大きな波紋を広げがちで、ホワイトハウスのスタッフは発言の「火消し」に追われ、同氏が言葉を間違えたと言わずに混乱を収める努力を続けている。

例えば、今月の米CBSテレビ「60ミニッツ」におけるインタビューで、バイデン氏が米軍は台湾防衛に動くと受け止められる発言をした後、政府高官はすぐさま米国の台湾に関する政策は不変だと主張した。

しかし、バイデン氏は大統領になる前から同様の趣旨を公言している。こうした台湾有事において米軍をはっきりと積極関与させようとする同氏の姿勢によって浮き彫りになったのは、長らく米国が維持してきた台湾政策が抱える矛盾だ。

歴代の米大統領は1970年代以降、台湾は中国の一部とする「1つの中国」政策に同意しつつ、1979年の「台湾関係法」に基づいて台湾の国防を手助けする義務も負ってきた。

つまりバイデン氏の発言で、米国が1つの中国という理念と現実の台湾防衛を同時に支持するというちぐはぐさが示されている。

<思ったことを口にする男>

今年3月にバイデン氏がプーチン氏を強く非難した際には、ホワイトハウスの高官は間髪入れずに「大統領が言いたかったのはプーチン氏が隣国にまで権力を振るうのを許してはならないという意味だ」と釈明し、「体制転換」を議論したわけでないと述べた。

ただ、ここでもホワイトハウスが何を言おうと、バイデン氏が個人的にプーチン氏は政権運営者としてふさわしくないと思っていて、機会がある限り、プーチン氏の力を弱めるために米国の政策を行使する意向であることが明白になった。

9月のデトロイト自動車ショーで飛び出したパンデミック「終了」宣言はどうだろうか。ホワイトハウスは長らく、新型コロナウイルスを巡る公衆衛生上の緊急対応をいつ終えるかは「科学に基づいて」判断するとのメッセージを発信してきた。

実際、米国内でまだ1日当たり何百人も死亡している中で、バイデン氏はこうした宣言を行った。

それでも政権の新型コロナウイルス対応の変化が反映されていたのは間違いない。政府当局は、次の新しいワクチン接種を、年1回行うインフルエンザ予防接種と同等に扱おうとしている。米疾病対策センター(CDC)は、バイデン氏の発言後にマスク着用義務に関する指針も緩和した。

そもそもバイデン氏が「口を滑らせる」のは、今に始まった現象ではない。オバマ政権で副大統領だった際には同性婚について、オバマ氏が支持しようとする前に賛意を表明したのは有名な話だ。

半世紀にわたってバイデン氏と仕事をした経験がある元上院議員のテッド・カウフマン氏は「彼はいつも思ったことを口にする男として知られていた」と語った。

<危機管理>

こうしたバイデン氏の率直さは、報道陣の相手をする若手側近にとっては頭痛の種と言える。バイデン氏が記者団の質問に答えるために行う「ぶら下がり」の後、思わずため息をこぼしたり、罵声を口に出したりする原因になっている。このぶら下がりをバイデン氏自身は楽しくこなすが、結果的に側近らに何らかの問題が降りかかるからだ。

政権幹部はバイデン氏のぶしつけで正確さを欠き、推測だけの発言を後で釈明しなければならなくなるのを心配し、「危機管理」の面でメディアによるバイデン氏への長時間インタビューを滅多には許可しない。先の「60ミニッツ」は、バイデン氏にとって7月にイスラエルのテレビ司会者と短い会話を交わして以降、初めてのインタビュー取材だ。

タウソン大学のマーサ・ジョイント・クマール名誉教授(政治学)の調査によると、バイデン氏が受けた正式なインタビュー回数は、それまでの大統領よりずっと少ない。

クマール氏が今年7月まで集めたデータに基づくと、バイデン氏が大統領として行った記者会見は17回、インタビューは39回、非公式の記者団とのやり取りは300回なのに対して、それ以前の6代の大統領の平均はそれぞれ41回、112回、172回だった。

当然ながら、バイデン氏は単純に間違ったことを言う場合もある。79歳の同氏は7月、ガンを患っていると発言。側近の1人はその後、ツイッターでバイデン氏が昨年1月の大統領就任前に非黒色腫皮膚がんを摘出したと述べ、大統領が言及したのはこのことだと訂正した。

(Trevor Hunnicutt記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

チェイニー元米副大統領が死去、84歳 イラク侵攻主

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中