ニュース速報

ワールド

アングル:国際課税強化に「例外」あるか、各国が激しい駆け引き

2021年06月11日(金)19時52分

6月10日、主要7カ国(G7)財務相会合が5日、各国共通の最低法人税率を少なくとも15%に設定し、国境をまたいで事業展開する巨大企業に対する課税権配分方法について合意した。ワシントンの歳入庁で5月撮影(2021年 ロイター/Andrew Kelly)

[パリ 10日 ロイター] - 主要7カ国(G7)財務相会合が5日、各国共通の最低法人税率を少なくとも15%に設定し、国境をまたいで事業展開する巨大企業に対する課税権配分方法について合意した。これにより法人課税強化の世界的な取り決めを実現する土台が固まったが、G7の共同声明には、より多くの国が現在行っている国際課税に関する協議で例外・免除規定を導入するかどうか言及がなかった。

この重要な問題は依然として未解決の状態であり、各国は激しい駆け引きに向けた準備を進めているが、その中心にいるのが中国だ。

ローザンヌ大学のロベール・ダノン教授(法学)は「最低税率を強制したいなら、例外規定を入れるべきではないが、それは非現実的だ」と認める。

各国はこれまで研究開発促進から外資誘致まで、さまざまな政策推進のために税制優遇措置を活用してきた。それだけに中国を含めて一部の国は、今になってそうした手段を放棄するのを嫌がっている。特に中国の場合、税率を低くして外資を呼び込む経済特区を何十年も前から設立し、そこが経済発展の核になってきた。

ある当局者は、中国がこれらの経済特区に関して「当然の懸念」を持っていると指摘。別の当局者はロイターに、中国はG7が合意した15%の共通最低税率に反対で、支持に転じるとすれば、例外規定を勝ち取ることが条件だとの見方を示した。

今のところ中国以外の20カ国・地域(G20)の間では、G7案に賛成の動きが広がりつつある。実際、南アフリカとメキシコ、インドネシアの財務相が米紙ワシントン・ポストでG7案支持を表明した。

新たな国際課税ルールづくりの協議関係者の1人は「最終的に中国とも合意に達すると確信している。なぜなら国際交渉の常として、ギブ・アンド・テイクが行われるからだ」と述べた。

<OECD提案>

約140カ国は、6月30─7月1日に開くオンライン会合で国際課税強化ルールの枠組みに関する意見をすりあわせ、7月9─10日のG20財務相・中央銀行総裁会議に原案を送らなければならない。

協議のとりまとめ役を務めてきた経済協力開発機構(OECD)は昨年10月に公表した市中協議文書の法人税共通最低税率部分で、投資ファンド、年金基金、政府系ファンド、政府機関、国際機関、非営利団体などが対象外になり得ると説明した。

これらを課税対象から外すことについては、ほぼ異議は出なかった。だが、同文書で国際海運業界も例外に含める可能性があるというOECDの提案は、賛否が分かれている。

欧州連合(EU)加盟国の多くは、海運会社の保有船舶の積載能力に基づいて課税し、彼らが船籍をタックスヘイブン(租税回避地)に登録しにくくしている。OECD傘下の国際交通フォーラム(ITF)の計算では、この登録によって海運業界の平均実効税率はわずか7%に下がってしまった。

ITFの海運業専門家オラフ・メルク氏は「海運国は業界を例外規定に入れることの正しさを訴えているが、一部の国はいかなる例外にも反対している」と説明した。

一方で各国は、並行して行われている協議を通じて、世界で最も収益性の高い100社の超過利益課税権の配分方法についても、例外を設けるかどうか決めなければならない。

協議に詳しい複数の関係者によると、英国は既にG7の場で、自らにとって極めて重要な金融セクターに例外規定を適用することを画策しているようだ。

OECD市中協議文書の超過利益課税配分の部分では、天然資源、金融サービス、建設、住宅用不動産、国際線航空会社、海運などが対象外の候補に挙げられている。

ローザンヌ大学のダノン氏は、最終合意の段階でどのような例外規定が含まれるか次第で、国際課税を巡る改革が全面的になるか部分的にとどまるかが決まると予想。「個人的には、その中間の内容に落ち着くとの考えに傾いている」と付け加えた。

(Leigh Thomas記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米給与の伸び鈍化、労働への需要減による可能性 SF

ビジネス

英中銀、ステーブルコイン規制を緩和 短国への投資6

ビジネス

KKR、航空宇宙部品メーカーをPEに22億ドルで売

ビジネス

中国自動車販売、10月は前年割れ 国内EV勢も明暗
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中