ニュース速報

ワールド

焦点:冬を迎えた欧州、コロナ流行でインフル激減の可能性

2020年12月05日(土)16時43分

12月1日、 欧州が新型コロナウイルス感染の急増リスクのある冬に備えている中で、今のところインフルエンザの確認感染数が最小限にとどまっている。独ベルリンの病院で10月撮影(2020年 ロイター/Fabrizio Bensch)

[パリ 1日 ロイター] - 欧州が新型コロナウイルス感染の急増リスクのある冬に備えている中で、今のところインフルエンザの確認感染数が最小限にとどまっている。これは欧州の人々にとって一筋の光明かもしれない。

10月初めごろ以降は例年ならインフル感染が増え始める時期だが、今年の場合、欧州地域で得られるそうしたデータは、今年の南半球や、インフルの季節が始まったばかりの米国のデータとも動きが一致している。

インフルの流行抑制について、一部の医師はロックダウン(封鎖)やマスク着用、手洗いなどの組み合わせが影響しているように見えると指摘。ただし、インフルの季節のピークはまだ数週間後、あるいは数か月後になるため、現在のデータは慎重に見るべきだとも警告する。

<WHO基準大きく下回る陽性率>

欧州疾病予防管理センター(ECDC)と世界保健機関(WHO)が共同運営する感染症監視機関「フルー・ニューズ・ヨーロッパ」によると、欧州域内54地域からサンプルを集めた結果、9月28日-11月22日のインフル定点検査4433件中、陽性と診断されたのは1件だけだった。

この定点検査データは、さまざまな地域医療機関が集めたサンプルに基づいて欧州各国の保健当局が照合したものだ。それによると陽性率はわずか0.02%だった。WHOがインフルの大流行の基準と見なす10%をはるかに下回る。昨年の同じ時期の調査では陽性率は15%だった。

米疾病予防管理センター(CDC)によると、米国内の公的医療研究機関などの報告では9月27日以来、インフル感染数は500件を下回っており、死亡例は1件もない。

専門家は新型コロナ禍でインフル検査が滞っていることもあると慎重な構えだ。一方で、欧州の定点検査が示した、これまでのところのインフル感染の少なさは、政府や保健当局をやや安堵させるだろう。冬に新型コロナとインフルの流行が重なって医療を崩壊させる事態が恐れられていたからだ。

フランスのリヨンで13の病院を経営する医療機関のウイルス学者、ブルーノ・リナ氏はロイターに「例年なら欧州でもそれ以外の地域でも、この時期は何百人ものインフル感染が確認されているはずだ」と話した。「新型コロナ感染を防ぐために取られた措置が、インフルやほかの呼吸器系ウイルスに対して極めて有効だということだ」という。

リナ氏や他の専門家2人は「ウイルス干渉」効果の可能性も指摘する。あるウイルスにさらされることで引き起こされる免疫反応が、他のウイルスにとって致命的になるというメカニズムだ。今は新型コロナがまん延しているため、インフルのような他の呼吸器系ウイルスにとって新型コロナとの共存が、まったく不可能ではないにしても、極めて難しくなっている可能性があるという。

欧州では例年、季節性インフルに最大約5000万人が罹患し、インフル関連の死者は年最大7万人。特に高齢者や高リスク集団がインフル死者の中心だ。

欧州の新型コロナ死者数は今年これまでに37万人を超えている。

<インフルワクチン生産にも影響>

複数の専門家は、新型コロナ流行の抑制に何らかの成功があれば、逆にインフル流行を押さえ込んでいるウイルス干渉がそれによって弱まる可能性があるとも警告する。インフルのピークは北半球では通常、年明けの最初の数週間ごろに来る。今年の場合、欧州でのピークは2月だった。

クリスマスや新年には新型コロナの制限措置を緩和し祭事の集まりを容認しようとしている政府は多く、保健当局はこれが感染症流行への対応を困難にするとも警戒している。

もう一つの不確定要因はインフルワクチンの接種率の行方だ。専門家によると、多くの政府が今年はできるだけ早くインフルワクチンの接種を受けるよう市民に要請しているにもかかわらず、欧州各地での接種状況はばらつきが大きい。

英ウォーリック大学のエドワード・ヒル主任研究員によると、今年はこれまでのところインフルの感染が少ないため、まだインフルのワクチン接種を受けていない人が接種を渋る可能性がある。

インフル感染者が少ないと、ワクチンメーカーが2021-22年のインフルシーズンに向けてワクチン生産準備をする上でも問題になる恐れがある。WHOは毎年2月、北半球の次の冬季向けに想定されるワクチン生産でメーカーが使うべきウイルス株を推奨する。

英グラクソスミスクライン、フランスのサノフィ、米アボット、英セキーラスなど大手は今年、需要拡大を見込んで欧州向けのインフルワクチン供給を平均で30%増やしている。しかし、域内の一部の国では供給が目標に届いていない。

欧州製薬団体連合会(EFPIA)のインフル作業部会の専門家、マシュー・ダウンハム氏は「現状でインフル流行が世界的に信じられないくらい少ないことを考えると、WHOが株の選定を決定するのに例年頼っている何千ものインフル陽性サンプルが入手できないかもしれない」と述べた。「WHOは1種類ないしそれ以上の株を推奨するのを来年3月までぎりぎり先延ばししないといけないかもしれない。これは次には、ワクチンメーカーの負担が増えることにもつながる」という。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の和平案推し進める用意」、 欧

ビジネス

米CB消費者信頼感、11月は88.7に低下 雇用や

ワールド

ウクライナ首都に無人機・ミサイル攻撃、7人死亡 エ

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中