ニュース速報

ワールド

米下院がウイグル人権法案可決、中国「重要分野での協力に影響」と警告

2019年12月04日(水)17時30分

 12月3日、米下院本会議は、中国政府が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族などイスラム教徒を弾圧しているとして、トランプ政権に強硬な対応を求めるウイグル人権法案を407対1の圧倒的賛成多数で可決した。写真は新疆ウイグル自治区グルジャ市で警備にあたる警察官。2018年9月撮影(2019年 ロイター/Thomas Peter/File Photo)

[ワシントン 3日 ロイター] - 米下院本会議は3日、中国政府が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族などイスラム教徒を弾圧しているとして、トランプ政権に強硬な対応を求めるウイグル人権法案を407対1の圧倒的賛成多数で可決した。

中国外務省は、同法案は重要分野における米中の協力に影響を及ぼすと指摘した。

上院が9月に可決した同様の法案を修正し、より強硬な内容にした。具体的には、共産党政治局委員で同自治区の党委員会書記を務める陳全国氏を制裁対象に指定するようトランプ大統領に求めている。成立すれば、政治局委員の制裁指定は初めてとなる。

法案は上院での承認とトランプ氏の署名を経て成立するが、ホワイトハウスはトランプ氏が署名するか、拒否権を発動するか明らかにしていない。

トランプ氏は前週、香港の反政府デモを支援する「香港人権・民主主義法案」に署名し、中国の猛反発を招いたばかり。

ウイグル人権法案はトランプ氏に対し、イスラム教徒への弾圧を非難し、新疆ウイグル自治区の北西部にある大規模な収容施設の閉鎖を呼び掛けるよう求めた。

また、トランプ氏に、法成立後120日以内に弾圧に関与した当局者のリストを議会に提出し、グローバル・マグニツキ―法に基づき制裁を科すよう要求。同法は査証(ビザ)の発給停止や米国内の資産凍結の根拠となる。

法案はさらに、ポンペオ国務長官に対し、自治区の再教育・強制労働施設に収容されている人数を推計するなど、弾圧の実態を報告するよう要求。顔・声認証技術など、個人の監視に利用可能な製品の中国への輸出も事実上禁止している。

一方、中国外務省は声明で、ウイグル自治区の問題は内政問題だとし、米国に間違いを正し、法案の成立を阻止するよう求めた。状況に応じてさらなる対応を取る方針も示した。

中国はこれまで一貫してウイグル族の人権侵害を否定しており、収容所は職業教育訓練センターだと主張。陳氏が制裁指定された場合は「相応の」報復措置を取ると警告してきた。

アナリストは、ウイグル人権法案が成立した場合、中国政府は香港人権法案の時よりも強硬な対抗措置を取る可能性があると指摘。ただ、中国によるウイグル族の扱いに批判的なポンペオ国務長官を含む米政府高官の査証発給制限には及ばないとの声も一部である。

米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家、クリス・ジョンソン氏は、中国側はこれまで、米中関係全般の悪化と通商問題とを分けて考える傾向にあったが、ウイグル人権法案が成立すれば境界線がさらにぼやける恐れがあると指摘した。

<米中通商交渉に影響も>

中国政府のスタンスに詳しい複数の関係筋はロイターに対し、ウイグル人権法案の可決で米中の緊張が高まり、「第1段階」の通商合意の成立が危ぶまれる恐れがあると指摘。対中追加関税の発動期限が迫っており、米中の緊張が一段と高まりかねないとの見方を示した。

ある中国政府当局者は匿名を条件に、「鉄が熱いうちに」合意に至る道筋を見つけなければ、合意成立までに非常に長い時間がかかる可能性があると指摘。

別の中国当局者も匿名を条件に、米政府が今月15日に対中追加関税を発動すれば、中国も報復関税を発動すると予想。そうなれば米中交渉に深刻な悪影響が出るとの見方を示した。

在中国の米大使館はロイターに対し、中国が対抗措置を講じる可能性について憶測はしないと表明。「中国が恣意的に拘束している人々を直ちに全員解放し、2年以上にわたって新疆の自国民を脅かしている過酷な政策を中止することを引き続き求める」とコメントした。

中国外務省の華春瑩報道官は4日の会見で、ウイグル人権法案可決が米中通商協議に影響を及ぼすかとの質問に対し、米中の重要分野での協力に影響を及ぼすとの見解を示した。

中国として対抗措置を検討しているかとの質問には、中国の利益を損ねる者は「相応の代償」を払うことになると述べたが、具体論には踏み込まなかった。

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

中国、自動車下取りに補助金 需要喚起へ

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏の銀行融資低迷、インフレ期待低下 利下げの
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中