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焦点:米雇用回復鈍化、コロナ直撃職種に「失業長期化」の懸念

2020年10月09日(金)07時18分

 10月6日、新型コロナウイルスのパンデミックが米国の労働市場に大打撃を与えてから半年余り。写真はバージニア州アレクサンドリアの飲食店で5月撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

[6日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミックが米国の労働市場に大打撃を与えてから半年余り。今も失業している数百万の人々は、たとえ以前に従事していた仕事に戻れるとしても、あと何年も先になる可能性があると覚悟しつつある。

夏場まで目覚ましかった米雇用情勢の改善は、足元で鈍ってきた。バーテンダーや家政婦といった旅行、娯楽、対個人サービス関係の仕事をしていた人たちは待機を強いられている。これらの業界が需要の冷え込みに対応しなければならず、米経済もパンデミック長期化の影響にさらされ始めたからだ。

米労働省が先週発表した9月雇用統計によると、労働力人口全体は約1億4200万人とコロナ前を7%下回る水準だったのに対して、娯楽・接客セクターはコロナ前に比べて23%減と、どの業界よりも低調だ。関連企業にとって全面的な事業再開が難しくなったため、従業員を一時帰休させる動きは完全な解雇の動きに変わりつつある。

ウォルト・ディズニーは先月、2万8000人の人員削減を発表。ユナイテッド航空とアメリカン航空は3万2000人を休業させるとしているが、映画館チェーン世界第2位のシネワールドは米国で約2万人の雇用を減らす方針だ。

一方パンデミック中に需要が高まるか、生活に不可欠なサービスを提供する小売り、公益などの分野では雇用が急速に回復し、2月の水準をほぼ取り戻した。

クリーブランド地区連銀のメスター総裁は先週ロイターに「まるで2種類の経済が動いているようだ。セクターごとに(状況が)非常に異なっている」と語った。

<世界が一変>

コロナの痛手が大きかった業界で解雇された労働者にとって、新たな仕事の機会はほんの数えるほどしかなく、競争は激しい。

ラスベガスのカジノでバーテンダーとして働いていたマシュー・シーバーズさん(36)は5月に解雇された。これまで5つの仕事に応募したが、どこからも採用の返事をもらっていない。「自分の住む世界は何もかもが一変した」と意気消沈しながらも、住宅ローンの返済猶予期間の半年での失効前には次の仕事を見つけたいと考えている。

インディード・ハイアリング・ラボの分析では、9月の求人広告件数は増加した。ただ必ずしも失業者が最も多い業種が働き手を募集しているわけではない。小売りや、ドライバーや配送が必要な仕事では前年並みに近づくか、むしろ超える動きがある一方で、接客、観光関連の求人は前年比で50%近く減り、調理、保育も約20%減少した。

同社の北米担当経済調査ディレクター、ニック・バンカー氏は「雇用の構成が変わっているのは間違いない」と話す。中程度ないし高水準の賃金の雇用よりも、およそ3万ドル未満の低賃金の雇用回復ペースの方が急速だという。

グロリベル・カスティロさん(50)は7月上旬、ベッドメークや清掃などの仕事を担当していたマンハッタンのホテルから今年2回目の自宅待機を言い渡されて以来、働けずにいる。全米旅行産業協会の報告書は9月21日の週で、ニューヨーク州着の航空会社の国内線と州内のホテル予約件数が前年比81%減だったと記しており、現状は厳しい。

別の仕事に就ければうれしいというカスティロさんだが、税引き前でおよそ週1400ドルの賃金や手厚い医療制度、残業手当というこれまでの好待遇が引き続き得られるかどうか不安も抱える。そのためホテルが今春、医療従事者の拠点になったことで従業員を呼び戻したような事態がまたあるのではないかとの期待を捨てていない。当面は、週に442ドル受け取っている失業保険給付金に加えて、低所得者向け食料支援サービス(フードスタンプ)を申請することを検討中。それでも家賃と光熱費で1300ドル近く支払うと、自分と娘の食費として残るのは毎月100ドル程度にすぎない。

<職業訓練求める声>

雇用の伸びが鈍る中で、働けない期間が長くなっている人が増えている。

米労働省によると、27週間以上仕事をしていない人は9月に78万1000人増えて240万人になった。これと別に完全解雇されたのは34万5000人増の380万人に上った。

一部のエコノミストは、2008年の金融危機と同じようにパンデミックが労働市場の構造の長期的変化の引き金になったのではないかと懸念している。08年当時は、経費節減や技術の発展によって、事務、管理、製造、建設といった職種で雇用が落ち込み、二度と07年の水準に戻らなかった。

政策担当者からは、労働者が新たな仕事を得るための訓練を受ける必要が出てきているのではないかとの声も聞かれる。リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は先週ブルームバーグテレビで、失業者のキャリア再構築支援が「われわれの取り組みにとってかなり重要な項目」だと認めた。

元バーテンダーのシーバーズさんは、コンピューター系の技術習得を検討している。「前の仕事に戻れなければ、もっと将来性のある別の仕事を見つけ出すだけだ」と前を向いた。

(Jonnelle Marte記者)

ロイター
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