ニュース速報

ビジネス

アングル:米FRB新戦略、中銀の役割巡る複雑な問題提起

2020年09月08日(火)06時33分

9月7日、米連邦準備理事会(FRB)が雇用最大化と物価安定に向け、インフレ率が「一時的に」2%を超えることを容認し、長期的に平均2%の目標達成を目指すとする新たな指針を打ち出したことを受け、ドル相場が長期にわたり低迷するほか、欧州中央銀行(ECB)や日銀を含む世界の中央銀行が中銀の役割を巡る複雑な問題に直面する可能性があることが分かった。写真は2019年3月、ワシントンのFRB  (2020年 ロイター/Brendan McDermid)

[フランクフルト 7日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が雇用最大化と物価安定に向け、インフレ率が「一時的に」2%を超えることを容認し、長期的に平均2%の目標達成を目指すとする新たな指針を打ち出したことを受け、ドル相場が長期にわたり低迷するほか、欧州中央銀行(ECB)や日銀を含む世界の中央銀行が中銀の役割を巡る複雑な問題に直面する可能性がある。

FRBが8月27日に公表した新戦略は、インフレ率が目標を下回っていた時期を相殺するために、目標を上回ることを容認するもの。利上げ実施は先延ばしされ、労働市場が活況を呈することを容認する姿勢が示された。

これにより世界の中銀にとり頭の痛い問題が発生する。第1に、FRBは担う責務を再解釈し、社会政策に足を踏み入れたと見なされる可能性がある。第2に、ドル相場が下落し、欧州からアジアに至るまで輸出業者が痛手を受ける可能性がある。

<ドル安への対応>

主要6通貨に対するドル指数<.DXY=>は3月半ば以降10%を超えて下落し、現在は約2年半ぶりの低水準にある。ドイツ、フランス、日本など伝統的に輸出依存度が高い国は自国通貨が上昇すれば痛手を受けるが、一部エコノミストの間では、為替要因でユーロ圏の経済成長率が0.2─0.4%ポイント押し下げられるとの見方を示している。

通常ならこうした事態への対処はそれほど困難ではないが、欧州中央銀行(ECB)と日銀はマイナス金利政策を採用しており、利下げは限界に近づいている。

第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生氏は、FRBの利上げが遅れれば、円の対ドルでの上昇圧力は高まると指摘。FRBの政策でドル相場の上昇が難しくなれば、日銀は円高について懸念せざるを得なくなり、これにはマイナス金利の深掘りを含む政策対応が必要となると述べた。

一部エコノミストの間では、ECBは現在実施している戦略見直しの一環として、FRBのように柔軟なインフレ目標に移行するべきとの見方も出ている。ただ、ECBはラガルド総裁の8年の任期中に利上げは実施しないとの見方が市場で大勢となる中、利上げが一段と遠のくと示唆することは、信頼問題につながる可能性がある。

<社会政策>

FRBが低所得層への支援を明確に打ち出したことは、FRBが担う責務が再解釈され、社会政策に役割を果たし始めたと受け止められる可能性がある。

日銀の若田部昌澄副総裁は、金融政策は雇用と所得状況により注目する必要があると一部で提唱されている議論について、個人的には検討する余地はあると考えていると述べた。

ECBのラガルド総裁も、気候変動に起因するリスクはあまりにも大きいため、ECBは看過できないとの見解を示すなど、中銀として抱える責務の再解釈に前向きである可能性がある。

だが、中銀当局者は選挙を経て選ばれた政治家ではない。気候変動や経済格差に対応し、政治の世界に足を踏み入れれば、政治的な攻撃を受け、中銀の独立性が脅かされる恐れがある。

ただFRBが新戦略の下で示した転換は、恩恵をもたらすかもしれない。ドル相場の下落で新興国の資金調達コストが低下し、成長加速につながる可能性がある。また、物価上昇を容認することで、長期金利とインフレ期待の双方が上昇し、長年にわたる異例の緩和策からの政策の正常化が円滑になる可能性もある。

こうしたことが実現するか判明するには何年もかかる。それまでの間、各国中銀はドル安への対応を迫られることになる。

(Balazs Koranyi記者、Leika Kihara記者)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米12月CPI、前年比2.7%上昇 伸び前月から横

ビジネス

主要国中銀総裁、パウエルFRB議長に「連帯」 独立

ワールド

抗議デモの死者2000人に イラン当局者が明らかに

ビジネス

米ブラックロック、約250人削減へ 事業効率化
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 9
    筋力はなぜパワーを必要としないのか?...動きを変え…
  • 10
    「お父さんの部屋から異臭がする」...検視官が見た「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中