ニュース速報

ビジネス

焦点:現代自動車がEVシフト本格化、テスラ追撃に大きな障害

2020年08月01日(土)07時48分

 韓国の現代自動車は、早くから水素を使う燃料電池車の開発に携わってきたが、その間に米電気自動車メーカーのテスラが急速に台頭し、韓国国内を含む世界全体のEV市場を席巻していく姿を目の当たりにしてきた。そして今、テスラの牙城に、現代自動車が積極攻勢を仕掛けようとしている。写真は現代自動車のロゴ。英ミルトン・キーンズのショールーム前で5月撮影(2020年 ロイター/Andrew Boyers)

[ソウル 28日 ロイター] - 韓国の現代自動車<005380.KS>は、早くから水素を使う燃料電池車の開発に携わってきたが、その間に米電気自動車(EV)メーカーのテスラが急速に台頭し、韓国国内を含む世界全体のEV市場を席巻していく姿を目の当たりにしてきた。そして今、テスラの牙城に、現代自動車が積極攻勢を仕掛けようとしている。

現代自は、来年と2024年にそれぞれ1本ずつEV専用の生産ラインを導入する計画であることが、同社労組内のニュースレターをロイターが確認して分かった。

また、現代自の実質トップ、チョン・ウィソン首席副会長は5月以降、バッテリーなどEV向け部品を製造するサムスン電子<005930.KS>やLGグループ、SKグループの首脳と会談を重ねている。

複数の業界筋の話では、この会談の目的は開発競争激化で需給がひっ迫している関連部品を現代自が確保することだ。サムスンやSKなどは、テスラ、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラル・モーターズ(GM)などのサプライヤーでもある。

現代自はロイターに、EV生産を効率的に拡大するため、国内のバッテリー供給先と協力していると認めた一方、専用生産ライン導入計画についてはコメントを拒んだ。

サムスン、LG、SKもコメントしていない。

こうした動きは、チョン首席副会長が2025年までにEVを年間100万台生産し、世界の市場シェア10%超の獲得を目指すと14日に表明したことを受け、実際に生産能力増強へと果敢に取り組んでいる表れと言える。

ただ、目標までの道のりは相当長い。LMCオートモーティブのデータに基づくと、現代自の昨年のEV販売台数は8万6434台だった。これはVWグループの7万3278台より多いものの、テスラの36万7500台には、遠く及ばない。

<コダックのてつを踏まず>

現代自のある幹部によると、同社から見て、テスラが高級車を生産していた段階では、懸念すべき存在ではなかった。だが、17年により価格が安い「モデル3」を発売した時点で、不安が高まったという。

現実の問題として、まだテスラに追いついた既存メーカーは出現しておらず、バッテリーとソフトウエア双方の技術でテスラの優位は揺らいでいない。

さらに現代自の場合、強力な労組がEV事業拡大にとって障害になりかねない。労組が心配するのは、ガソリン車に比べてEVの生産に必要な部品点数や人員が少なくなるので、雇用が脅かされるのではないかという点だ。現代自では、従来車の重要部品は内製化を進めた一方、EVの多くの部品は外注化しているという事情も影響している。

このため労組側は、EVの主要部品も内製化し、自社で組み立て作業をするべきだと要求。労組の広報担当者はロイターに「われわれはEV事業自体に反対しているのではない。コダックは業界がデジタル写真に移行しているのに、フィルムにこだわり破綻してしまった。われわれは、組合員の雇用を守りたいだけだ」と強調した。

<既存メーカーの試練>

2010年に現代自は韓国政府向けに230台のEVを生産したが、充電設備が整っていなかったため、結局、これらのEVはソウル郊外の研究センターに「お蔵入り」となった、と当時研究開発を統括していたイ・ヒョンスン氏は語る。

韓国初の国産ガソリンエンジンの開発者として知られるイ氏が著した14年の書籍からは、EVはバッテリーのコスト高という面から「非現実的」で、クリーンエネルギー車としては燃料電池車の方が将来性は明るいと考えられていたことが読み取れる。

事実、現代自はトヨタ自動車<7203.T>やニコラなどとともに、早くから燃料電池車を支援してきた数少ないメーカーの1つで、13年には初の量産型「ツーソンFCV」を、18年にはSUVタイプの「ネクソ」をそれぞれ市場に投入した。

しかし、燃料電池車は、今になってもあまり普及していない。LMCオートモーティブによると、昨年世界全体で販売された燃料電池車は7707台にとどまり、EVの168万台に大きく水を空けられている。

現代自のお膝元である韓国市場でも、テスラの6月の販売台数が最高を記録し、モデル3の売れ行きは現代自の「コナ」やBMW、アウディのEVを寄せ付けなかった。

消息筋はロイターに「現代自は、テスラがこれほど素早くEV市場を支配するとは想定していなかった」と打ち明けた。

そこで現代自は、燃料電池車の宣伝に人気歌手グループ・BTSを起用しつつも、2025年までに最大2車種しか発売する予定がないのに対して、EVは23種類も投入する構えだ。

もっとも新興EVメーカー、米ルシッドのバイスプレジデントで、かつてテスラやフォード・モーターでも働いていたピーター・ハセンカンプ氏は、既存自動車メーカーには電動化に際して、過去から続く「慣性」という試練に直面すると指摘する。

ハセンカンプ氏は、ロイターに「われわれがシリコンバレーを拠点とする理由の一部は、ソフトウエアと電子的な設計技術の専門性を活用することにある」と説明。大手自動車メーカーがこうした技術がうまく機能する方法を習得するには数世代の時間が必要で、彼らが思うよりもハードルはずっと高いとも語った。

(Hyunjoo Jin記者、Joyce Lee記者)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、英哨戒艦の台湾海峡通過を非難 「平和と安定損

ワールド

ウクライナ中銀の物価安定方針、信頼に足る=英中銀総

ワールド

中国・NZ首脳会談、貿易や太平洋の安全保障を協議

ワールド

ウクライナのオデーサにドローン攻撃、1人死亡・14
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中