<バイデン勝利と「軍師」カミングスの辞任で既定のブレグジット路線も危うくなった>

「怪僧ラスプーチン」を更迭

[ロンドン発]中国の楊貴妃に始まりフィリピンのイメルダ・マルコス元大統領夫人まで「歴史の影に女あり」「傾国の女」とはよく言われるが、新型コロナウイルスの第2波と欧州連合(EU)離脱後の協定交渉という難問を抱える英首相官邸で理解不能な内紛劇が起きた。

ボリス・ジョンソン首相が側近のリー・ケイン広報部長を慰留するため官邸首席補佐官に昇任させようとしたところ、首相の婚約者キャリー・シモンズ氏が猛反発した。結局、ケイン広報部長ばかりか「イギリスの怪僧ラスプーチン」と呼ばれるドミニク・カミングズ首席顧問まで辞任する騒ぎに発展した。

事実上の更迭である。4年前の国民投票でEU離脱派を勝利させ、強硬離脱を主導した立役者の2人が政治の表舞台から姿を消すことになった。この政争にはいろいろな側面があり、解釈が非常に難しい。

バイデン氏当選で「合意なき離脱」なくなる?

米大統領選で民主党候補のジョー・バイデン前副大統領が勝利したことでジョンソン首相は英・北アイルランドとアイルランドの間に「目に見える国境」を復活させかねない「合意なき離脱」を選択できなくなった。

3600人以上の犠牲を出した北アイルランド紛争に終止符を打った1998年のベルファスト合意は米民主党の政治的レガシー(遺産)。米民主党は紛争を再燃させる恐れのある「合意なき離脱」には一貫して反対してきた。

バイデン氏は敬虔なカトリック。曽祖父はアイルランド出身で、1850年にアメリカに移住した。同国にはバイデン氏のようなアイルランド系移民の子孫が人口の1割に当たる3300万人もいる。アイルランド系は米大統領選の「大票田」なのだ。

イギリスがEUとの「合意なき離脱」を選択すれば、アメリカのアイルランド系の怒りを買い、同国とのFTA(自由貿易協定)の締結はますます望み薄になる。

ジョンソン首相が11月末にデッドラインを迎えるEU離脱後の協定交渉で「合意」に転換するため「合意なき離脱」を唱える2人を切ったと解釈したいところだが、それなら首相がどうしてケイン氏を昇格させようとしたのか説明できなくなる。

ジョンソンの頭の中は空?