※近年、激動の国際情勢を表現する語彙は、かつてないスピードで更新され続けています。Tech RightからCognitive Warfare、活人感、AI Slopまで――。ウェブ特集「いくつ知ってる? 世界を読み解くキーワード」では、その背景にある文脈とともに解説します。
躺平(タンピン)(寝そべり族)
朝9時から夜9時まで週6日働く「996」過労文化、報われない過酷な競争、住宅・教育費の高騰……。社会階層の固定化が進む中国で、従来の成功に手が届かない若者の絶望感から生まれたのが「寝そべり族」。欲望を抑え最低限の生活で社会の搾取を拒絶する、現実への消極的抵抗だが、2021年から定着したこの流行語は中国政府に強い危機感を与えた。
26年4月末、政府の諜報部門である国家安全省が「『寝そべり』を扇動する彼らが忙しく動き回っている」と題した記事で、海外の反中国組織がインフルエンサーに資金提供して「努力は無駄」「奮闘=搾取」といったナラティブを組織的に広めている、と主張。関連ワードの削除やアカウント停止など、言論統制の対象となっている。
润(ルン)(海外移住・脱出)
新型コロナウイルスで上海がロックダウン(都市封鎖)された22年頃から若者の間で爆発的に流行し、現在も頻繁に使われているネット流行語。「海外へ移住する」「過酷な環境から脱出する」ことを意味する。中国語の「润」の発音表記「Run」と、英語の「Run(逃げる)」が重ねられている。「潤う(豊かな人生を得る)」の意味もある。「寝そべり」に対し、システムそのものから物理的に脱出する積極的な選択肢で、息苦しい社会に絶望した若者たちが、いかにして国を飛び出すかを模索する心理を象徴している。
日本に移住する「润日(ルンリー)」がよく知られているが、日本政府の経営管理ビザと永住許可要件の厳格化で、多くが他国への「二润(2度目の脱出)」検討を余儀なくされている。