Ankur Banerjee Rocky Swift Summer Zhen

[30日 ロイター] - 世界最大の暗号資産(仮想通貨)交換業者バイナンスから、ハッカーが63億ドル相当の資産を盗み出した。暗号資産の盗難として過去最大で、アナリストらは北朝鮮による犯行と分析し、デジタル資産への信頼を揺るがしかねないと指摘した。

このニュースを受けて暗号資産価格は下落した。バイナンスは出金を停止し、損失を補償すると表明した。盗まれた資産の約半分は、テザーやサークル、トランプ米大統領が支援するワールド・リバティー・ファイナンシャルなどのステーブルコイン発行会社によって速やかに凍結された。

米ブロックチェーン分析会社のTRMラボとチェイナリシスによると、資産の大半は29日深夜から約20分間で盗み出された。北朝鮮の犯行とされる過去の大規模攻撃との類似点があるという。

TRMによると、攻撃者はバイナンスが使用するウォレットに指示を出し、保有資産を攻撃者側のウォレットへ全て移せる状態にあった。米連邦捜査局(FBI)が北朝鮮の犯行と断定した2025年の暗号資産交換業者バイビットでの盗難と同様の手口だった。

TRMはウェブサイトに掲載した分析で「今回の攻撃は北朝鮮の精鋭ハッキング部隊によるものと判断している」とした。TRMとチェイナリシスはいずれも、北朝鮮の犯行との判断に高い確信を示した。

<史上最大のハッキング>

米韓当局やサイバーセキュリティーの専門家によると、北朝鮮は長年、国家とつながりのあるサイバー部隊を使い、スパイ活動や資金窃取、収入確保を行ってきた。北朝鮮はこうした指摘を一貫して否定している。

バイナンスは利用者の資金は安全だと表明。提携先と協力して被害資産の一部の凍結を進めており、これまでに約30億ドル相当の所在を特定したと説明した。今後48時間以内に出金サービスを再開する見通しだ。残る33億ドル相当の状況には言及しなかった。

共同最高経営責任者(CEO)のリチャード・テン氏はXに「資金は安全で全ての損失を補償する」と投稿。「当社の調査では、犯行に関与した人物を特定していない」とした。

マーケットメーカーであるGSRのアラビンド・スリニバサン氏は「史上最大のハッキングだ」と述べた。

ビットコインは7万6368ドルと6週間ぶりの安値を付け、イーサは3%超下落して2カ月ぶりの安値となる2178ドルを付けた。その後、市場は落ち着きを取り戻した。

コインゲッコーによると、当初バイナンスコインとして発行され、バイナンスの手数料支払いに使えるトークン「BNB」は、過去24時間で5%下落し709.70ドルとなった。信頼感の揺らぎは上場する暗号資産交換業者の株価にも波及した。

米株式市場の時間外取引では、影響はないと表明した暗号資産交換業者コインベース・グローバルが4.8%下落。ビットコインを購入・保有するストラテジーは6%近く下落した。

<技術者のパソコンに不正侵入か>

バイナンスによると、初期調査では、同社の技術者1人が使用するノートパソコンへの不正侵入が発端となった可能性が示された。攻撃者はそこから同社のシステムの1つにアクセスし、不正な出金を行ったという。

同社は「セキュリティーチームが、今回の侵入の入り口となった可能性があるコンピューターを通じた攻撃経路の全容を追跡している」と説明した。

2014年に5億ドル相当のビットコインが盗まれて破綻した日本のビットコイン交換業者マウントゴックスの元トップ、マルク・カルプレス氏は、攻撃者がバイナンスの少なくとも2つのウォレットの秘密鍵にアクセスした可能性が高いと指摘。「バイナンスは資産を複数のシステムに分散し、ハッキングの影響が一部の資産にとどまるようにしていたとみられる。それでも、1回のハッキングによる損失は大きい」と述べた。

アナリストによると、今回の不正侵入は資産損失の可能性にとどまらず、暗号資産市場に幅広い影響を及ぼす恐れがある。市場は既に米金利上昇と上場投資信託(ETF)を通じた購入需要の低下で圧迫されていた。

香港を拠点とするハッシュキー・グループのシニアリサーチャー、ティム・スン氏は「リスク選好を一段と冷やし、CEX(中央集権型取引所)に預けた資産の安全性を投資家が見直すきっかけになりかねない」と述べた。

<被害額、利用者保護基金を上回る>

デジタル資産の売買・取引サービスを提供するバイナンスの登録利用者数は世界で3億3500万人。25年の年次報告書によると、預かり資産は約1628億ドルだった。

同社のウェブサイトによると、セキュリティー侵害が発生した際に利用者の資産を保護するため、10億ドル規模の利用者向け資産保護基金を運営している。準備資産は全てビットコインで保有している。

テン氏は、この基金と「会社の資金」で損失を補償すると述べた。

ステーブルコイン発行会社テザーは、今回の事件に関連する15億7000万ドル近くの資産を凍結したと発表。サークルも8億ドル超を凍結した。

ワールド・リバティー・ファイナンシャルは、カストディ会社のビットゴーと協力して資金を凍結したと発表した。バイナンス共同創業者のイー・ヘー氏によると、2700万ドル相当のステーブルコインと約200万ドル相当のワールド・リバティーのトークンが凍結された。暗号資産企業リップルも約2億ドルの資金を凍結したという。

今回の事件は、相次ぐ暗号資産の盗難に新たに加わった。TRMラボの研究者によると、25年には約150件の攻撃で29億ドル相当の暗号資産が盗まれた。

9月には暗号資産交換業者ビットゲットが、自社のプラットフォームから約3億5000万ドル相当の暗号資産が盗まれたと発表しており、ハッカーに対する業界の脆弱性が浮き彫りとなっている。

Reuters Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。