Gertrude Chavez-Dreyfuss Lewis Krauskopf Suzanne McGee
[ニューヨーク 12日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)のウォーシュ議長が、過去数十年にわたって築かれてきた金融政策に関する詳細な情報発信の慣行を、果たして市場にコストを強いることなく見直せるのかどうかについて、投資家の間で疑問の声が上がっている。
市場参加者の中には、FRBが最近進めている「過度な政策メッセージへの依存を弱める取り組み」を歓迎する向きもある。しかし多くの投資家はFRBのガイダンス(政策指針)を債券価格の評価やリスク管理モデルなどに長年組み込んできたため、見直しの影響は極めて大きいと訴える。
次の焦点は、今月下旬に西部ワイオミング州ジャクソンホールで開催される年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会合)だ。ウォーシュ氏がこの場で、より抑制的なコミュニケーション戦略をさらに推し進めるのかどうか、市場は注視している。
F/mインベストメンツのアレックス・モリス最高経営責任者(CEO)は「中央銀行の役割は透明性や情報提供を減らして資本市場をより刺激的にすることではない。一度透明性を提供し始めると、市場はそれが取り上げられることを簡単には受け入れられなくなる」と指摘する。
ウォーシュ氏が今年議長に就任して以降、FRBはコミュニケーション戦略の簡素化を進めてきた。将来の政策指針となるフォワードガイダンスを削除し、連邦公開市場委員会(FOMC)声明文を短縮。また今後の金利政策の方向性を示唆するのではなく、足元の経済状況に重点を置く姿勢へと転換している。
さらに最近では米紙ニューヨーク・タイムズが、ウォーシュ氏はFOMCの開催回数を減らす案を提起したと報じた。実現すれば、およそ半世紀続いてきた慣行が変わることになる。
FRBの広報担当者は、会合回数の削減の可能性や情報発信を抑制する戦略についてコメントを控えた。
ウォーシュ氏は、市場が中央銀行の発信に過度に依存しており、本来は経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)にもっと注目すべきだと主張している。だが投資家は、そうした依存体質自体をFRBが長年かけて作り上げてきたと反論する。定期的な記者会見、経済見通しの公表、詳細な政策声明などを通じて、FRBは約半世紀にわたって透明性の向上を推進してきたからだ。
多くの投資家が懸念するのは、単に市場の不安定性が高まることだけではない。政策当局からの情報が減ればリスク評価が難しくなり、結果として長期的には国債利回りや企業・家計の借入コストが上昇する恐れも出てくる。
エドワード・ジョーンズのシニア・グローバル投資ストラテジスト、アンジェロ・クルカファス氏は「前回のFOMC以降、長期国債利回りの上昇や長期インフレ期待の高まりに見られるように、市場にはかなりの混乱がある。今回のケースでは、情報が少ないことが必ずしも市場にとって良いとは言えない。市場は新しいFRBが経済指標に対してどのように反応するのかを、まだ探っている段階だからだ」と解説した。
実際足元では米30年国債利回りが19年ぶりの高水準に達し、指標となる10年国債利回りも20カ月ぶりの高水準を記録している。
ドイツ銀行の米国金利ストラテジスト、スティーブン・ゼン氏は、FRBによるガイダンス縮小には明確なトレードオフが存在すると語った上で、会合回数や情報発信が減れば「不要なノイズ」を減らし、個々の政策決定の重要性を高める効果が期待できる一方で、「新たな枠組みへの移行期間中は、政策への不確実性が高まるため、それに見合う形で債券利回りも上昇する公算が大きい」と述べた。投資家はFRBの考え方が見えにくくなる代償として、より高いリターンを求めるようになりそうだからだ。
<不透明さの対価>
これは特に米国債市場にとって重要な問題になる。長期金利には将来のインフレ率、経済成長率、金融政策に対する期待が織り込まれているためだ。複数の投資家は、FRBの発信が市場価格形成の仕組みに深く組み込まれている以上、その縮小は国債評価のあり方そのものを変えてしまいかねないと警戒する。
FRBのガイダンス縮小に前向きな投資家でさえ、市場が経済指標への依存を強めることは避けられないとの見方で一致している。モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント(MSIM)でブロード・マーケット債券運用チームを率いるビシャル・カンドゥジャ氏は「会合回数やガイダンスが減ること自体は、市場にとって必ずしも悪いことではない」と話しながらも、政策当局の発言と実際の行動が一致しない場合に、投資家は特に苦慮すると予想。公式なシグナルが減る世界では、市場はインフレ率や雇用統計、経済成長率などのデータから直接、今後の政策を推測せざるを得なくなるという。
アメリプライズのチーフ市場ストラテジスト、アンソニー・サグリンベン氏は、市場参加者と政策当局の認識を一致させるためには、定期的な政策情報の発信が依然として不可欠だと考えている。もっとも同氏は、現在のFOMCや声明発表の頻度を維持したまま、記者会見の回数を減らすことは十分可能だろうとの見方を示した。
とはいえFRBにとってより大きな課題は、自らが何十年もかけて提供してきた透明性を市場に手放させることができるかどうかにある。ノーススター・インベストメント・マネジメントのエリック・キュービー最高投資責任者(CIO)は「どのFRB議長も就任当初はたいてい厳しいスタートを切る。そしてその後に自分なりのやり方を見つけていかなければならない」と述べ、ウォーシュ氏の今後の出方を見定める意向だ。