Kentaro Sugiyama
[東京 13日 ロイター] - 日銀が13日に発表した7月の企業物価指数は、9月の利上げ論を後押しする材料となりそうだ。日銀は利上げの時期やペースを左右する要因の一つにAI関連需要を挙げており、今回の物価統計で半導体メモリなどにAI(人工知能)関連需要の高まりの影響が確認されたためだ。
7月の国内企業物価指数は前年比7.2%上昇。伸び率は6月の原油市況の下落を受けてわずかに鈍化したものの、依然として高い上昇率となっている。類別では「電子部品・デバイス」が同3.3%、「電気機器」が同4.6%、「情報通信機器」が同17.3%、それぞれ上昇した。
統計上に「AI関連財」という分類はないものの、輸入物価指数と輸出物価指数では、電気・電子機器に含まれるモス型メモリ集積回路(半導体メモリ)の価格上昇に「はっきりとAI関連需要の影響が出ている」(日銀の担当者)という。
AIサーバーやデータセンターへの投資は、半導体だけでなく電源装置や通信設備など幅広い分野に及ぶ。関連部材の価格動向を追うことで、AI投資ブームの熱気が国内の取引価格にどの程度浸透しているかを読み取ることができる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、半導体メーカーが高値で売れるAIサーバーやデータセンター向け製品を優先的に生産すれば、家電や産業機器向けの汎用半導体が不足しやすくなると指摘。「電子部品のコスト増がパソコンや家電製品などに波及する可能性がある」と話す。
日銀によると、今回の国内企業物価でも、情報通信機器に含まれるパーソナルコンピューターで、メモリ価格の高騰を反映した値上げが見られた。
<「石油・石炭製品」の伸び率は鈍化>
ただ、企業物価の上昇をAI関連需要だけで説明することはできない。原材料価格や供給制約といった要因も複雑に絡んでいる。
7月の国内企業物価指数の前年比で最も押し上げに寄与したのは「非鉄金属」だった。市場ではデータセンター建設の増加などを背景に銅需要への関心が高まっているが、日銀によると、価格上昇にはインドネシアの鉱山の生産回復の遅れといった供給制約も影響している。アルミ価格についても、中東情勢などを背景とした供給面の影響が大きいという。
「石油・石炭製品」は前年比17.5%上昇した。原油市況の下落を受けて伸び率は前月の22.8%から鈍化したものの、中東情勢の不安定化を受けて調達先の変更が進んでおり、今後は輸送距離の長期化や運賃の上昇が輸入コストの押し上げ要因になり得る。
6月の日銀短観では、企業の積極的な価格転嫁姿勢が確認された。原油高に加え、AI需要による部材高も、価格転嫁が進みやすい環境の中では、最終財やサービスの価格設定に影響を及ぼし得る。
<AI関連財の2面性>
もっとも、AI需要は原油高や円安に伴う物価上昇とは異なる側面も持つ。企業や家計の負担を増やすコストプッシュ型のインフレ要因になる一方、輸出や企業収益を押し上げ、景気を下支えする可能性もあるためだ。
8月のロイター短観では、AI需要に伴う半導体市場の活況を指摘する声が相次いだ。「半導体向けが好調」(ゴム)、「半導体市場向け製品の受注が活況」(機械)、「メモリ向けが好調」(電機)などの声が聞かれた。ある精密機器メーカーは「4月から国内外ともに受注環境が大幅に改善し、通常の2倍の注文が入っている」とし、「過去見たことのない状況が続いている」と回答した。
大和証券の南健人シニアエコノミストは、AI需要の拡大は日本経済にとって「2面性を持つ」と指摘する。半導体製造装置や素材、電子部品を供給する企業にとって輸出と収益の拡大につながる。コストの増加要因であると同時に、設備投資や生産活動を促す要因でもあるという。
<9月利上げの可能性は>
市場では日銀が追加利上げに踏み切るとの見方が強まっている。翌日物金利スワップ(OIS)市場では、9月会合での利上げを8割程度織り込む水準となった。ベセント米財務長官が植田和男総裁への信頼を示し、日銀の独立した政策運営を支持する姿勢を表明したことも、追加利上げ観測を後押ししている。
みずほ総合研究所の服部直樹チーフ日本経済エコノミストは「そもそも9月会合での利上げを予想していたが、日本国内で物価上昇リスクが高まっていることや、円安是正を求める米国側の姿勢なども踏まえると、9月の利上げの可能性がかなり高くなってきた」とみている。
AI投資ブームに伴う需要拡大が半導体メモリから川下分野へ波及し始めているとすれば、物価上振れと景気の底堅さを同時に示す材料となる。9月会合はこうした需要がけん引する物価圧力をどう評価するかも焦点となりそうだ。
(杉山健太郎 編集:橋本浩)