だが、彼に致命傷を与えたのは、身内の労働党員が彼を好まなかったことで、これは実のところフェアではない。スターマーは、労働党が約15年におよび野党に甘んじた後、ようやく労働党を再び選挙で勝てる政党にした人物なのだから。
「社会主義の闘志」だった前党首のジェレミー・コービンは、総選挙で2度敗れた。対する中道派のスターマーは、ちょうど2年前に地滑り的勝利を収めた。しかし政権に就くと、多くの労働党員はもっと急進的なリーダーに置き換えたいと望み始めたようだ。
スターマーがカリスマ性に欠け、中流階級的に見えることも逆効果だった。彼はこのイメージに抗おうと、母親は看護師で、父親は「工場の工具職人」だったと繰り返し語った。だが、彼には(裕福な)南部地域のアクセントがあり、普通の公立校より高額なグラマースクールに通い、その後オックスフォード大学へ進んだ。政治の道に進む前は弁護士だった。加えて彼はアーセナルのサポーター。「アンチ」から見れば都市部のエリート的イメージのサッカーチームだ。
奇妙なことに、スターマーの弱点の1つは、いかにも政治家らしくは見えなかったことだった。権力欲があまりなくて計算高くない――普通なら、人々はそういう人物こそ好むはずだ。なのにスターマーの場合、それは信念の欠如に見えた。政策は持っていたが、「スターマー主義」がいったい何なのか、誰も説明できなかった。
後任最有力、バーナムの素顔
それに対してバーナムには北部のアクセントがあり、北部の選挙区を代表し、北部のサッカーチームであるエバートンを応援している。彼のマンチェスターの政治基盤は、労働党の草の根的支持層にも信頼感を与える。一部の人にとって、イングランド北部は泥臭くリアルであり、一方で南部は特権と見せかけを象徴する。
今のところ、バーナムがイギリスでもう1つのエリート大学であるケンブリッジ大学の出身であることは焦点になっていない。とはいえ、彼もまた「ウェストミンスター(英国会)の内輪社会」の人間だと思われてしまえば、この状況も変わり得るだろう。
おそらくこれは、いわば「北部のクーデター」だ。バーナムは北部出身の仲間たちを要職に起用すると見られており、党の地盤である北部を振興する政策を支持することで知られている。
つまり労働党は、総選挙の負託なしに、首相と政権の方向性を変えようとしている。本来ならもっと物議を醸していいはずだが、僕たちはこういうことに慣れてしまった。保守党は10年足らずの間に4回もこれをやったのだ。
ただし、重要な違いがある。スターマーには、辞任に追い込まれるほどの決定的な一大災難が発生したわけではない(デービッド・キャメロンが手を下してしまったブレグジットしかり、ボリス・ジョンソンのパーティーゲートしかり、リズ・トラスの引き起こした経済危機しかり……)。
スターマーはさまざまな点で過ちを犯したが、追い出された理由は、労働党が違うリーダーと違う何かを求めたからだった。
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