Kate Holton Andrew MacAskill
[ロンドン 22日 ロイター] - 22日の朝、スターマー英首相はスタッフと妻に付き添われ、日差しを浴びながらダウニング街の首相官邸から姿を現した。感情があふれて震える声で、自分はもはや英国を率いるのにふさわしい人物ではないと語った。
英国政治史上、最大級の圧勝劇で政権を握ったスターマー氏が、わずか2年足らずで退陣する。辞任は過去10年間で6人目。この約2世紀で最も頻繁に首相が入れ替わっている。
スターマー氏も前任者らと同様、生活水準を巡る国民の怒りを沈められなかった。生活水準は2008年の金融危機から停滞しており、コロナ禍などの世界的ショックによる国家債務の膨張が、政府支出を縛ってきた。不法移民問題への対処の失敗も、深刻な政治的分断を生んでいる。
歴代英首相についての著書がある歴史家のアンソニー・セルドン氏は、スターマー氏や、近年の歴代首相であるトラス氏、ジョンソン氏らが明確な指針を示して確信と信頼を育むのに失敗したことで、英国は非常に深い沼にはまったと指摘する。
次期首相就任が確実視されるバーナム前マンチェスター市長についてセルドン氏は「アンディ・バーナム氏が首相として失敗すれば、英国の見通しは暗い」と語った。
<過去の栄光>
英国はかつての国際社会において、政治的・経済的安定の支柱と見なされていた。サッチャー、ブレア両元首相が政権に就いていた計21年間は、現代英国の再構築につながった。
しかし、過大に膨らんだ金融セクターに経済成長を大きく依存していた英国は、世界金融危機によって大打撃を受ける。続く公共セクターの緊縮により、英国は後に押し寄せる荒波への備えを欠いた。
他政党の協力を得ずに選挙で過半数を獲得し、任期を全うした最後のケースは2001年から05年までのブレア首相(ブレア氏の首相在任期間は1997年から07年だが、07年は任期途中で辞任)にさかのぼる。かつて首相が目まぐるしく入れ替わるイタリアを嘲笑していた英国は今や、就任から4年近くが過ぎイタリア共和国史上最も長く政権を維持した首相になろうとしているメローニ氏を羨望の眼差しで見つめている。
多くのアナリストは、英国の不安定さについて欧州連合(EU)離脱を選んだ10年前の国民投票と結びつけている。しかし元財務省高官でシンクタンク「インスティテュート・フォー・ガバメント(IfG)」のシニアフェローであるジル・ラター氏は、リーマンショックから全てが始まったと言う。
「自分たちの生活は良くなっておらず、子供たちの生活も今後良くなるとは思えないというムードが全般に漂っている」と同氏は説明し、「(リーマンショック)以降のどの政権も、そうした状況を変えることができなかったようだ」と語った。
EU離脱に続き、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻を巡る財政出動の結果、国家債務残高は国内総生産(GDP)比で100%寸前に達している。
日本、イタリア、米国、フランスなどは、いずれも債務対GDP比率が英国より高いが、英国は根強いインフレに加え、財政赤字の穴埋めを外国人投資家に依存していることへの懸念から、借り入れコストが他国よりも高い。
こうした財政支出への制約が、生活水準を直撃してきた。
スーパーマーケット大手ASDAと経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)が昨年まとめたデータによると、英国の平均実質可処分所得は増加しているにもかかわらず、所得が最低から40%の層の購買力は、2021年よりも低下している。
<なぜうまくいかないのか>
元政府顧問のサム・フリードマン氏は近著「失敗国家:なぜ何も機能しないのか、そしてどう修正するか」の中で、英国は過度に中央集権化されている上、国家の主要機関の規模が小さ過ぎて諸問題に対処しきれていないと主張している。
加えてIfGのラター氏や保守党古参議員のロジャー・ゲール氏は、英国の政治文化が劣化したと指摘する。テレビニュースやSNSが、ひっきりなしに政治家にスピード重視の決断を強いているというのだ。
ゲール氏は「法律が作られ過ぎている。その多くが粗悪で、起草もひどい。もっと成熟した政府が必要だ」と語り、政府はペースを落とすべきだと訴えた。
スターマー氏は、電気料金高騰から投資の促進、医療サービスや防衛支出の改善に至るまで、あらゆる課題に立ち向かうための計画をほとんど準備せずに政権に就いたと批判されてきた。
数週間中に政権を引き継ぐとみられるバーナム氏はたたき上げの政治家で、スターマー氏のライバルだ。バーナム氏は速やかに組閣し、明確な国家ビジョンを打ち出す必要がある。
24年の総選挙でスターマー氏に敗れたスナク前首相(保守党)はサンデー・タイムズ紙への寄稿で、バーナム氏が計画を持たずに政権運営に望めば「彼もまた、なぜうまくいかないのかと夜も眠れずに思い悩む首相になるだろう」と警鐘を鳴らした。