今にも火花が散りかねない外交の一場面──そんな緊張感が文章ににじみ出ている。
それは2025年1月20日のこと。ジル・バイデン前大統領夫人はメラニア・トランプ新大統領夫人とドナルド・トランプ米大統領の就任式に向かう車に同乗することになった。ジルが新刊の回想録『イーストウィングからの眺め(View From the EastWing)』で書いているように、車内は終始ピリピリした空気に包まれていた。
それまでジルとメラニアはほとんど接点がなかった。本来ならあるはずの顔合わせの機会がスルーされたのだ。ホワイトハウスには新旧のファーストレディーがお茶会で親交を結ぶ慣行がある。だが21年1月に前大統領夫人だったメラニアは、夫が前年の大統領選の結果に異議を申し立てていたため、この伝統儀礼をパス。24年にはジルがお茶会を催す番だったが、このときもメラニアは招待を断った。
そんな2人の仲を取り持とうと、民主党の有力上院議員エイミー・クロブチャーの夫であるジョン・ベスラーも同じ車に乗り込んでいた。彼の務めはこの日の「最大の難役とも言うべき」ものだったと、ジルは書いている。
メラニアが自分と距離を取るのは個人的な感情からだというのが、ジルの見立てだ。メラニアは、フロリダ州の私邸マールアラーゴにFBIが家宅捜索に入ったのは、ジルの夫の差し金だと思い込んでいる、というのだ。
次のページ