静岡の初夏、新緑に包まれた日本平の中腹に、世界中の演劇人が集まる場所がある。静岡県立の劇団SPAC(静岡県舞台芸術センター)だ。

日本で公共劇場に専属劇団があるのは、このSPACと兵庫県立ピッコロ劇団だけだ。SPACの特色は、単に劇団を抱えるだけでなく、俳優・技術・制作・文芸・劇場施設を一体で運営し、作品創作から上演、教育普及、国際交流までを担う公共の舞台芸術拠点という点にある。

全国初の県立劇団として設立されたピッコロ劇団が地域と教育に深く根ざした活動を展開してきたのに対し、SPACは「静岡から世界へ」という志向をもつ創造・発信型の組織として際立っている。

しかもその「世界へ」は、単なるスローガンではない。SPACの作品は15カ国を超えて海外で上演されており、近年もフランス、中国、イギリスなどから招聘を受けて公演を続けている。地方の公立文化事業団でありながら、国際的な舞台芸術シーンの中で確かな位置を築いてきたのである。

そのSPACの事業の柱となっているのが、毎年ゴールデンウィークに開催される「SHIZUOKAせかい演劇祭」だ。4月25日〜5月6日まで開催される今年の演劇祭でアーティスティック・ディレクターを務める石神夏希が打ち出しているテーマは『「せかい」はあなたの隣に住んでいる。』。私たちの「すぐ隣」にある世界とどう向き合うか、という問いが全プログラムに貫かれている。

この演劇祭を通じて、舞台芸術の現在と未来をどう変えていきたいのか、SPACの二人のリーダー、宮城聰(芸術総監督)と石神夏希(アーティスティック・ディレクター、以下AD)に聞いた。

「舞台芸術公園」と静岡の多様性

SPACの活動拠点は極めてユニークだ。JR東海道本線の東静岡駅前にある「静岡芸術劇場」に加え、日本観光地100選にも選ばれた日本平には、東京ドーム約4倍の広大な敷地に野外劇場や稽古場が点在する「静岡県舞台芸術公園」を擁している。

実はこの公園、単なる劇場施設ではない。民間による土地開発の手が伸びるのを防ぎ、自然景観を保護するという目的もあって静岡県によって整備されたという、全国でも類を見ない経緯がある。

静岡県は東西に広く、東部・中部・西部という3つの地域から成る。富士山、お茶、スズキやヤマハといった世界的企業――地域ごとに独自の個性をもち、ときには静岡市と浜松市という二大都市が政治的・文化的な地盤をめぐって競い合ってきた歴史もある。

石神ADは、この「違い」こそが創造性の源泉だと語る。山を一つ、川を一つ越えるだけで言葉も文化も変わる。その多様性が、今年の演劇祭の土壌となっている。

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