SPAC芸術総監督の宮城聰 NEWSWEEK JAPAN
SPAC芸術総監督の宮城聰 NEWSWEEK JAPAN

演劇は「羽根飾り」ではない、社会の「インフラ」──宮城聰芸術総監督

── かつて東京で活動していた時と静岡に来てからとでは、舞台への向き合い方にどんな変化がありましたか。

宮城: 東京で活動していた頃はよく「東京では3000人でいい、世界で3万人に見てもらえばいい」と言っていました。1万人に1人のコアなファンがいれば成立するという考え方です。しかし静岡では、そのやり方は通用しません。人口が限られた地域では、今まで演劇に触れたことがない人にも「面白い」と思ってもらえる作品を作らなければならないんです。

── そこで「SPAC 2.0」というコンセプトのもと、石神さんが上演作品の選定を担当しています。彼女に任せた理由は?

宮城: 今の状況ではもう、芸術そのものの価値が社会に必要だ、芸術は人間の心を豊かにしてくれるんだっていう言説はほとんど無効になっています。余裕がなくなった社会では、演劇が単なる「羽根飾り(贅沢品)」だと思われたら、真っ先に捨てられてしまいます。こういう時に必要なのは、劇場や芸術と社会の関係について語れる人です。石神さんは、常に「なぜ今の日本にこの作品が必要なのか」という問いと向き合ってきました。まさにそういう人こそが、今の公共劇場には必要なんです。俳優のスキルを企業研修や観光、教育などに活用し、自律的で持続可能な運営を目指す「SPAC 2.0」は、その実践の場でもあります。

SPAC『王⼥メデイア』
宮城聰演出によるSPAC『王⼥メデイア』 Photo: Uchida Takuma

── 代表作『王女メデイア』の16年ぶりの静岡での再演も、社会への問い直しになりますか。

宮城: これは私の〈語り〉と〈動き〉を分離する「二人一役」という手法で、国際的な評価をいただいた作品でもあります。今、世界中に「排外主義」の空気が広がっていますが、私は、自分という最大の他者と出会うことができれば、自分の周りにいる他者たちとも出会えると思っています。メデイアのような「あからさまな他者」を舞台に出現させることで、観客が自分自身の内側にある宇宙に気づき、排外的な見方を超えていくきっかけになればと考えています。

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