コラム

パリ五輪直前に突然の議会解散・総選挙という危険な賭けに出たマクロン大統領の成算と誤算

2024年06月26日(水)18時00分

カギとなる投票率

最後の頼みの綱は、再び小選挙区2回投票制のカラクリだ。第2回投票に残るために乗り越えなければならない壁は有権者数の12.5%とされているが、この壁は投票率が上がれば低くなり(例えば投票率75%の下では、得票率ベースで16.7%に相当)、下がれば高くなる(例えば投票率50%の下では、得票率ベースで25%に相当)。

予想得票率21.5%のマクロン与党にとって、この壁は厳しい。
選挙区によっては、この壁を乗り越える場合もあるだろうが、そうでない場合もあろう。総体的にみれば、投票率が上がれば上がるほど、第2回投票に残って3党間での決選投票に持ち込めるケースが増えるということになる。

最近の世論調査に基づく予測では、投票率は64%と推定される。
投票率が64%であれば、この壁は得票率ベースで約20%に相当し、予想得票率21.5%のマクロン与党はかろうじてクリアできることになる。この趨勢が維持されれば、個別には選挙区次第ではあることに変わりはないが、総体的には何とかギリギリで第2回投票に残って3党間での決選投票に持ち込めるケースが多くなると言えそうだ。
いずれにせよ、投票率が極めて重要なカギとなることは、間違いない。

三つ巴の帰趨

3党間の三つ巴が実現したとしても、その後の展開は、極めて複雑な状況になる。
通常の選挙では、第1回投票の後、第2回投票までの間に、第1回投票の結果次第で、各党間での候補者調整(立候補辞退など)、選挙協力の組み換えや再調整(政治的立場が近い政党の候補への支持表明など)などが行われるが、今回の場合はどうなるだろうか。

通常の選挙の場合は、政治的立場の近い政党間で協力や提携が模索されるが、今回の場合は、3党ともお互いに敵対し合っているので、どの党の間をとってみても、通常の選挙の場合のような協力や提携が成立する余地は極めて小さい。3党とも現時点では手の内を明らかにしておらず、どうなるかまったく見通せない状況だ。

しかし、かすかながら、一部で協力や提携が成立する余地はある。
マクロン与党は「反極右」かつ「反極左」(マクロン大統領は左翼連合を「極左」と見なしている)の立場だが、「反極左」より「反極右」の方が強い。したがって、第1回投票で国民連合と左翼連合の2党が上位2位を占めた場合、第3位のマクロン与党は、左翼連合への支持に回る可能性が高い。ただし、左翼連合の中の「極左」系の候補者に対しては留保が付くだろう。

左翼連合は「反極右」かつ「反マクロン」の立場だが、「反マクロン」より「反極右」の方が強い。したがって、第1回投票で国民連合とマクロン与党の2党が上位2位を占めた場合、第3位の左翼連合はマクロン与党への支持に回る可能性が高い。あるいは、左翼連合の中で、マクロン与党を支持するかしないかで路線対立が表面化して、再び内部分裂を起こす可能性もある。

国民連合は「反マクロン」かつ「反左翼連合」の立場で、両者に対し等しく敵対関係にあるので、マクロン与党と左翼連合の2党が上位2位を占めた場合、第3位の国民連合はどちらも支持しないという姿勢のまま第2回投票に進み、3党間での三つ巴の再現となる可能性が高い。それを回避すべく、マクロン与党と左翼連合のいずれかが立候補辞退するなどの選挙協力をして、国民連合の決選投票での敗退を図ろうとするするかもしれない。

その他、以上の3つのブロックに与していない「元祖共和党」と独立系右派は、少数勢力ではあるが、こうした3ブロック間の鍔迫り合いの中で、バランス関係を変えるような存在感を示すことがあるかもしれない。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

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