コラム

「軍事政権化」したトランプ政権

2017年04月10日(月)16時30分

バノン大統領顧問がNSCの中核メンバーから外れ、大統領の娘婿クシュナー氏と軍出身者の影響力が増大した。REUTERS/Kevin Lamarque

<シリアを空爆したトランプ政権の背景に何があったのか。バノンが力を失い、クシュナーが軍出身者との連携を強めていると言われる。そして、トランプ外交の今後はどうなるのか>

米中首脳会談の最中にシリアに対してトマホーク60発(国防総省によれば、うち1発は不具合により海に落下)による攻撃を開始したアメリカ。このシリア空爆を巡って様々な議論が展開されているが、ここでは一歩引いた形で、この攻撃がもたらしたトランプ政権の性格の変化に焦点を当てて検討してみたい。

攻撃の背景:ホワイトハウスの力学の変化

すでに多くの報道が指摘しているように、トランプ大統領が今回空爆を判断したのは、米中首脳会議を開始する直前であった。シリアでの化学兵器使用に関する情報が入った際、トランプ大統領は被害に遭った子供たちの写真に強く心を揺さぶられたと言われている。

実際、トランプ大統領はインテリジェンス・ブリーフィングを受ける際、従来のように文書にしてまとめるのではなく、視聴覚資料を作成し、口頭での報告をするよう要請している。それだけに、こうしたビジュアルのインパクトが大きな影響を与えたと言うことは想像に難くない。また、これまではインテリジェンス・ブリーフィングに対しても関心が無く、歴代大統領のように毎日ブリーフィングを受けるのではなく、一週間に一回程度、必要に応じて大統領が求めた時に受けるような体制が出来ていた。

今回のシリアにおける化学兵器使用についてトランプ大統領が積極的に情報を集めているという予兆は特に見られなかったが、米中首脳会談の前であったことでインテリジェンス機関がトランプ大統領に情報を提供しやすい環境があったということも関係しているのかもしれない。

というのも、米中首脳会談の大きな議題の一つが北朝鮮の核・ミサイル開発の問題であり、大量破壊兵器の拡散について、国家情報長官(DNI)がシリアの問題を含めてブリーフィングしたのではないかと思われるからである。つまり、今回、トランプ大統領の目にシリアの子供たちの画像が触れたのは、そうしたタイミングの問題も大きな役割を果たした可能性があると思われる。

それ以上に、この米中首脳会談に先だって、国家安全保障会議(NSC)のスタッフの構成が変わった点も見逃せない。これまで「闇の大統領」と呼ばれ、大統領の政策アジェンダをコントロールし、大統領令を書いてきたスティーブ・バノン大統領顧問がNSCの中核メンバーから外れ(それでもNSCの会合に出席することは可能)、ホワイトハウスでの安全保障政策の中心にはマクマスター安保担当大統領補佐官が座ることとなった。この背景には、これまでバノンと同盟関係にあった、大統領の娘婿で日増しに影響力を増してきたジャレッド・クシュナー大統領顧問との関係が悪化したことがあると言われている

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ会長、マスク氏の後継CEO探し否定 報道は「

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ビジネス

NZフォンテラの消費者事業売却、明治など入札検討か

ビジネス

三井物産、26年3月期純利益は14%減見込む 資源
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story