最新記事
韓国経済

債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務処理めぐり「バッドバンク」構想で大論争

2025年8月14日(木)17時11分
佐々木和義

ソウル中心部乙支路3街(ウルチロサムガ)の町工場の人びと

ソウル中心部乙支路3街(ウルチロサムガ)の町工場の人びと(撮影=筆者)

誠実に返済してきた者との公平性は?

第3の課題として公平性とモラルハザードの懸念もある。誠実に返済してきた事業者や個人との公平性の問題に加えて、政府が債務を帳消しにするという認識を植え付けかねない懸念がある。

文在寅(ムン・ジェイン)政権はコロナ禍の影響によって経営が厳しくなった自営業者を救済する名目で債務の帳消しを行い、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権も長期延滞自営業者と青年脆弱階層を助けるため融資元金の一部と利子を減免した。歴代政権が借金帳消しを乱発しており、これが続けば借り入れる事業者や個人が帳消しを期待して返済を怠り、貸し出す金融機関も甘い審査で融資を乱発することになりかねない。

事業融資の不良債権は経済状況など外的環境が主因だが、個人債権は把握が難しい。「国が個人のギャンブルの借金を帳消しにする事例が出てはならない」という提起に対し、国会金融委員会の金炳煥(キム・ビョンファン)委員長は「債務に対してギャンブル関連可否も審査」するなど「所得と財産などを全て調べる予定」と述べた。

第4の課題は債権の買取価格の設定だ。国会金融委員会は不良債権を額面の平均5%の価格で買い入れる方針を示しているが、これは市場の実勢価格とのかい離が大きい。民間の債権買取・取立て業者は平均29.9%で不良債権を買い入れている。バッドバンクの買入価格があまりに低く設定されると、これらの民間業者がバッドバンク事業への参加を見送る可能性が高いと指摘されている。

小規模事業主の反応は?

中小企業中央会が7月17日から20日に小規模企業や小商工人396人を対象に行った「新政府に望む小企業・小商工人政策アンケート調査」によると、新政権への要望として「内需活性化および消費促進(39.4%)」が最も多く、「金融支援(32.4%)」が続いていた一方、バッドバンク事業には59.1%が反対し、賛成は40.9%だった。

やはり誠実な債務者との公平性やモラルハザードへの懸念があるようだ。李在明政権の看板政策ともいえるバッドバンク構想だが、その実現には、多くの課題の解決が求められている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドネシア寄宿学校倒壊、生徒60人なお不明 捜索

ビジネス

システム障害続くアサヒGHD、手作業で「注文取」 

ビジネス

午後3時のドルは147円後半に上昇、日銀総裁発言で

ワールド

米関税の内外経済への影響、不確実性は「依然かなり大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中