最新記事
天然ガス

プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧州はロシア離れで対中輸出も採算割れと米シンクタンク

Putin Suffering 'Enormous Difficulties' Selling Russia's Gas: Analysis

2024年5月27日(月)14時59分
ブレンダン・コール

ビデオ声明で、巨大国営会社ガスプロムの創立35周年を讃えるプーチン(2月17日) Sputnik/Alexander Kazakov/Pool via REUTERS

<ウクライナを支援する欧州諸国へのパイプラインの栓を締めるなどの脅しが効き過ぎて、欧州諸国は代替のガス調達先を見つけてしまった。友好国・中国への輸出も採算割れになりそうだ>

アメリカのシンクタンク、アトランティック・カウンシルの最新の分析によると、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは天然ガスの新しい市場を見つけることができずにいる。そのため、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの軍事力を維持するための貴重な収入源が減り、西側に対抗する武器としてのエネルギーの影響力が損なわれている。

【動画】ノルドストリームがバルト海沖でガス漏れ、破壊工作か 欧州が原因究明急ぐ

世界最大級の天然ガス上場企業である国営エネルギー会社ガスプロムは、ロシア経済の中心的存在だが、ウクライナ戦争で大きな痛手を負っている。

 

ウクライナ侵攻後の2022年半ば、ガスプロムはヨーロッパへのガス供給を制限した。これは、冬の季節を前にウクライナの支援国に脅しをかけ、同時に欧米によるロシア制裁とウクライナ支援に対する報復をねらったプーチンの動きと見られている。

だが、EUはすでに代替の長期的なガス輸入源を見つけてしまった。ロシアの天然ガスに輸入制限を科すまでもなく、ロシアのパイプラインを通じたガス輸入の大半を必要としなくなった。依然としてロシア産ガスに依存しているのはオーストリアやハンガリーなど一部の国だけだ。

ガスプロムの2023年上半期の売上高は、前年同期比で41%減少し、営業利益は71%、ガス生産量は25%減少した。石油・電力事業も含むガスプロム・グループ全体で、昨年の純損失が6290億ルーブル(約69億ドル)となり、2023年は無配に終わった。

儲からない中国への輸出

ロシアの元エネルギー副大臣で現在は野党政治家のウラジーミル・ミロフがアトランティック・カウンシルに提出した報告書によると、ガスプロムはEU市場を失った影響に苦しんでおり、「損失を補う方法を見つけられずにいる」という。

この報告書によると、同社のガスの上流(探鉱・開発・生産)部門の拠点は、西シベリアの主要油田とEUの代わりに開発中のアジアの市場を結ぶインフラが不足しているため、孤立している。また、天然ガスを新たな市場へ導くためのLNG(液化天然ガス)プラントを西シベリアに建設することもできていない。

アトランティック・カウンシルは、中国までの新しいパイプラインの建設には約1000億ドルの費用がかかるとし、ロシアは「かなりの損失を被りながら中国にガスを販売することになる可能性が高い」という。中国へのガス輸出で利益を上げるのは難しいかもしれないと指摘する。

ガス需要を国内供給と中央アジアからの輸入に頼ることができる中国は、2030年以降までガスの追加供給を必要としないとも予想されており、ガスプロムと新たなガス供給契約を締結する場合、いかなる種類の上乗せ価格も認める気はないだろう、と報告書は分析する。さらに、ガス価格がはるかに安いロシアの国内市場や、南アジア諸国へのパイプライン建設における技術的・政治的な困難など、その他の障害によって、「ガスプロムは近い将来、八方塞がりの状態になる」という。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中