最新記事

BOOKS

「公園で毎日おばあさんが犬としていた」40年前の証言

2022年12月9日(金)18時10分
印南敦史(作家、書評家)
公園

zu-kuni-iStock.

<「池袋=変態」と決めつける書き方はどうかと思うが、普通とは何かを考えさせられる一冊『ルポ池袋 アンダーワールド』>

少なくとも私にとっては昔から、池袋は「エリア外」の街だった。

セゾン美術館と「WAVE」というレコード店があった1990年代初頭までは、その2カ所のためだけに月に何度か訪れてはいた。しかし、だからといってそれ以外のどこかに立ち寄ることはなかったし、両者がなくなってからはますます足を運ぶ機会が減った。

それはなぜか?

単に相性の問題かもしれないが、同じ東京都内といえども、私の住む地域と池袋はなにかが決定的に違っているのだ。

もちろん、どちらが上だと比較したいわけではない。ましてや、そのニュアンスを言語化するのは難しいことでもある。が、理由はどうあれこちらが意識的に距離を詰めていかない限り、おそらくは10km程度しか離れていないであろうその街との距離は、今後も縮まらないような気がしている。

言いかえれば、池袋は私にとって「なんだかよくわからないエリア」だ。

『ルポ池袋 アンダーワールド』(中村淳彦、花房観音・著、大洋図書)を読んでみたいと思ったのも、わからないエリアのことを理解したいという気持ちがあったからだ。そして読了した結果、少しだけ、この街のことが理解できたような気がした。

いや、そんなのは気のせいで、実は理解などできていないのかもしれないが、ぼんやりとしていた街の外形が、少しだけ見えやすくなったのは事実だ。


「東男と京女」という言葉がある。
 粋でたくましい江戸の男と、しとやかな京都の女はお似合いだという、江戸時代の男女の理想的な相性の組み合わせのことだ。
「池袋」を描いたこの本は、東京で生まれ育った明らかに粋ではない男と、しとやかとはほど遠い京都の女(正確に書くと私の出身は兵庫)の共著だが、相性云々の話で言うと、最悪かもしれない。(「はじめに 花房観音」より)

こう述べる花房氏にとって、東京はずっとフィクションの街だったという。テレビの中に映っていたり、小説や映画に描かれているような、現実感のない街。一方、共著者の中村淳彦氏は、東京に生まれ育ち、東京から離れたことがないそうだ。

ここでは、そんな両者がそれぞれの視点から、豊島区に位置するこの繁華街について語っているのである。まずは花房氏、次に中村氏という順序で全十章が綴られていく。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

10月米利下げ観測強まる、金利先物市場 FOMC決

ビジネス

FRBが0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用弱含みで

ビジネス

再送〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中