最新記事

イラン

W杯で命懸けの国歌斉唱拒否に出たイラン選手の運命

Iran Soccer Team Could Face Arrest for Silence During National Anthem

2022年11月22日(火)19時31分
ニック・モードワネック

カタールW杯での初戦、イラン選手は国歌を歌わず国内の抗議デモとの連帯を示した(11月21日) Marko Djurica-REUTERS

<サッカーW杯の国歌斉唱という檜舞台でイラン・チームは口をつぐんで歌わなかった。帰国すれば逮捕、国歌にブーイングしたイラン人観客たちも危ないという。改めて知るイラン体制の恐ろしさ>

FIFAワールドカップでは11月21日、イラン対イングランド戦がおこなわれたが、試合に先立つ国歌演奏中に、口をつぐんで歌わなかったイラン代表選手は、帰国後に重大な結果に直面するおそれがある。

世界の目が選手たちの反応に集まるなか、彼らは、3カ月前から抗議活動を続けているイラン国民との連帯を示した。イランの首都テヘランで、22歳のクルド人女性マフサ・アミニがヒジャブ(スカーフ)かぶり方が「不適切」として逮捕され、拘束中に死亡したことをきっかけに起こった抗議デモだ。

【動画】国歌を歌わないW杯選手、敗北を祝うファン、危険極まりない母国イラン

イギリスの情報番組「グッドモーニング・ブリテン」の特派員ジョナサン・スウェインのツイートを見ると、会場にいたイランのサッカーファンたちが自国の国歌にブーイングしている。ソーシャルメディア上のイラン人たちは、この国歌はイランのものではなく、実際には(イラン・)イスラム共和国のものだと指摘し、そのふたつを明確に区別している。

ニューヨークタイムズ紙のツイートによれば、イランのサッカーファンたちは、カタール・ドーハのハリファ国際スタジアム内に「イランに自由を」「女性、生命、自由」などと書かれたプラカードを持ちこんだという。スタジアムの外には、イラン革命前のパーレビ朝の旗を持ちこもうとして入場を許されなかったファンたちもいた。

W杯を中断させたかったイラン

ワールドカップ参加国のなかでも優勝オッズが低いイランは、最終的に、グループBの試合でイングランドに2対6で敗れた。

ロンドンを拠点とするペルシャ語放送局イラン・インターナショナルが11月21日付けでツイッターに投稿した動画には、テヘランのシャーラン地区に住むイラン人たちが、イラン代表チームの敗北に歓声をあげ、さらには「独裁者に死を」と繰り返す様子が写っている。

イラン当局は、12月18日まで続くワールドカップの期間中、国内の抗議活動に言及しないことを事前に要請した。

別の報道では、イラン当局は、ワールドカップを中断させるためにテロ攻撃の実施を検討していたが、ホスト国カタールの反応を考えて思いとどまったと伝えられている。

ニューヨーク州立大学オルバニー校で国際法と人権について研究するデイビッド・E・グウィン教授が本誌に語ったところによれば、現在進行中の抗議活動は、イランの厳しい経済状況と結びついており、国歌斉唱を拒んだイラン選手だけでなくその家族も、「拘束や逮捕を含めた重大な結果に直面するおそれがある」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    インド映画はなぜ踊るのか?...『ムトゥ 踊るマハラ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中