最新記事

核兵器

核攻撃にはトランプの一存と5分があればいい

2017年11月15日(水)20時00分
ジェイソン・ルミエール

トランプ訪問に抗議するフィリピン・マニラのデモ Erik De Castro-REUTERS

<トランプのような気性の男が大量虐殺の権限を持つのを懸念した米議会は、核使用の大統領権限を40年ぶりに見直そうとしている>

金正恩の挑発に乗ったドナルド・トランプ米大統領が命じれば、たった5分で核兵器が発射される──。

短気で軽はずみな決断をしがちなトランプが、うっかり核のボタンを押してしまうシナリオに、米議会が危機感を募らせている。核攻撃には議会承認を必要とする法案の本格的な審議に入った。40年ぶりの見直しだ。

米上院外交委員会は11月14日、「核兵器を使用する大統領権限」について公聴会を開催した。上下院を通じ、外交委員会が大統領権限を議論するのは1976年以来だ。

この議論は長年にわたり先延ばしにされてきたと、米プリンストン大学の研究者で核兵器の発射手順の専門家であるブルース・ブレアは言う。

「今の法律は、世界を破滅させる神のような権限を1人の人間に委ねている。おかしいと気づくべきだ」と、ブレアは本誌に語った。

核攻撃を命令するトランプの権限を制限しようとする動きは、今回が初めてではない。米民主党のエド・マーキーとテッド・リュー両上院議員は今年1月、議会承認なしにトランプが核を先制使用するのを禁ずる法案を提出した。

ブレアも、トランプの資質や判断力の欠如を懸念する。「トランプは周囲の反対を押し切っても誤った判断をする。そうなればおしまいだ」

核使用へのハードルは低い

今の手順では、トランプは高官の助言や注意メモすらなしにトランプは核のボタンを押すことができる。核攻撃を実行すると決断すれば、ホワイトハウスの地下にある核シェルター、米大統領危機管理センター(PEOC)に入り、米国防総省の作戦司令室と作戦会議を開始する。だがトランプには部下の助言を聞く義務がなく、その場にすべての関係閣僚が出席する保証すらない。連絡手段が古いせいで、演習であれ現実であれ国防長官と国務長官が会議に参加できた試しは一度もないと、かつて大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射担当将校を務めたブレアは言う。

いざというときトランプは、パスコードを使って正式に核ミサイル発射を命令する。トランプの命令から核ミサイル発射までの所要時間は、早ければ5分。北朝鮮への核攻撃で使われる可能性が高い原子力潜水艦から発射する場合は15分だ。

誰が大統領であれ、途方もない責任だ。

トランプの大統領就任以来、核による大量虐殺へのハードルがいかに低いかを知るブレアのような専門家は、心配で眠れない夜を過ごしているという。ブレアは言う。「1日中不安で、夜2杯目の酒を飲むまで休まらない」

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中