米スマート・バイブレーターはどこまで賢いか
クリチマンも同じ意見だ。彼は電話インタビュー中に、ライオネスのホームページに載っている文章を読み上げた。「あなたの性的興奮やオーガズムのパターンを時間を追って追跡することで、あなたの体が何に反応するのかを学ぶことができる」
クリチマンは、一息つくとこう言った。「そのためのテクノロジーなど必要ない。必要なのは、2人の人間が互いにコミュニケーションを取ることだ。テクノロジーを使えば、2人の関係に多大なストレスが生まれる。人間の経験とは、他者との触れ合いや反応だ。人がヴァギナの体温にこだわり始めたらぶち壊しではないか? 肉体関係が機械的になり過ぎていないだろうか? こうした製品は性行為の概念を機械化してしまう」
暗いイメージを一掃したい
それでもクリンガーは、女性は性的喜びを見つける新しい方法を欲しがるという事実に賭けている。
クリンガーはアメリカ中西部の保守的な家庭で育ち、米ダートマス大学でスタジオ・アートと哲学を学んだ後、金融業界に就職し、ニューヨークに移住した。1年後に退職すると、性玩具のパーティーを主催するようになった。「大学時代のパーティーで女の子から、Gスポット(女性の性感帯)って何?私のGスポットはどこにあるの?と聞かれたのを今も覚えている。別のパーティーでは、自分は一度もオーガズムを経験したことがない、色々試したがどうすればいいのか分からない、何かアドバイスはない?これって普通?と聞かれた。私にはびっくりする発言だった」
クリンガーが初めてバイブレーターを購入したのは、高校生の時。薄暗いCDショップに行き、現金で買った。「すごく不愉快な経験だった。ベイブランド(Babeland、女性向けのおしゃれなアダルトグッズ店)のような、デザイン性に優れた最高級のバイブレーターが並んでいるような店でもなかった」と彼女は言う。「だから私は、女性により良い経験を与えるバイブレーターを作りたかった。振動の速さや耐久性よりも、デザインや購入方法で私がしたような不愉快な経験をなくしたかった」
We-Vibeが裁判沙汰になり、スマート・バイブレーター市場に暗雲が漂う中、クリンガーを中心にしたチームは、ユーザーが完全にプライバシーを保ち、収集された全データを匿名で蓄積するシステムを開発したという。「繊細なデータの秘密厳守に加えて、新たなシステムを整備した。今では当社の社員がデータにアクセスしても、それが誰なのか分からない」とクリンガーは言う。