最新記事

北朝鮮

駐車場ビジネスから「性上納」まで、北朝鮮軍のポンコツな実態

2017年6月9日(金)11時25分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

金正恩(キム・ジョンウン)党委員長に忠誠を誓い一致団結しているかのように見える北朝鮮軍だが KCNA/via REUTERS

<4週連続でミサイルを発射し、米国への挑発をやめない北朝鮮だが、肝心の北朝鮮軍は「飢える軍隊」であり、腐敗とセクハラが横行している>

北朝鮮が8日、地対艦ミサイルを発射した。同国によるミサイル発射は4月に3回、さらに5月14日に火星12型を発射してからは、実に4週連続という異例の事態だ。

北朝鮮の国営メディアは、連日のように核とミサイルの能力を誇示しながら、「いつでも、どこからでもかかってこい」と言わんばかりに米国を挑発し、気勢を上げている。

北朝鮮がミサイルの精度を向上させていることは間違いないように見られる。核もしかりだ。一方、こうした「飛び道具」の開発への注力と逆行して、一般の軍事力はどうやら戦争どころではなくなっているようだ。

手術部位をかきむしり

北朝鮮軍の総兵力は120万人とされており、韓国軍(66万人)と在韓米軍(2万5千人)の合計よりも圧倒的に多い。しかし、長引く経済難で弱体化し、その実態は「飢える軍隊」と揶揄されている。

末端兵士に十分な食料が行き渡らず、中朝国境地帯では飢えた兵士がたびたび略奪・強奪事件を起こしている。2014年には初級将校が脱北し、中国側で70代の老夫婦など4人を射殺する事件が起きた。将校は、中国人民解放軍と銃撃戦を繰り広げ、腹部を負傷して捕らえられた。病院で手術を受け、一命はとりとめたものの、強制送還とその後の罰を恐れ自殺した。

(参考記事:自分の手術部位を「かきむしって自殺」した北朝鮮軍将校

他の国家機関同様、経済難にあえぐ北朝鮮軍は、生き残りをかけて金儲けに走っている。

北朝鮮軍のビジネスのうち、最も大規模なのが水産業だ。人民軍の水産事業所所属の漁船が獲った魚を、人民軍系の貿易会社が中国に輸出し、莫大な額の外貨を稼ぎ出す。中国では「北朝鮮の海は汚染されていない」というイメージがあり、かつてはそこそこ売れていた。しかし、それもここ最近は不振が伝えられている。

また、中国に領海の漁業権を販売しているが、大挙押し寄せてくる不法中国漁船を襲撃するなど度々トラブルを起こしており、決して順調とはいえない。

水産業が不振のせいか、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、北朝鮮軍は「警備兵付き駐車場」という新手のビジネスに手を広げているという。

軍隊内での性行為強要

RFAのある情報筋は、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の長津(チャンジン)郡から両江道(リャンガンド)の三水(サムス)郡を訪れた。利用した交通手段は、工場や企業所の名義を借りて営業運転する「白タク」である「ソビ車」だ。

200キロちょっとの道のりだが、道路事情が劣悪な北朝鮮では、1日で走破できない。夜道の走行は危険であるため、泊まりとなったのだが、北朝鮮軍の基地に乗り入れて駐車。兵士が紹介してくれた近所の旅館で1泊したと情報筋は語った。

もちろんタダで駐車させてくれるわけではない。中国の東風汽車製の6トントラックの場合、積荷のない場合の駐車料金は1時間2000北朝鮮ウォン(約26円)、積荷のある場合はその倍だ。宿代は1泊素泊まりで4000北朝鮮ウォン(約52円)だ。

わざわざカネを払ってまで基地の中に車を停めるのは、安全性が極めて高いからだ。路上に駐車した場合、強盗に襲われる可能性がある。しかし、基地の中なら民間人が許可なく立ち入ることもできず、兵士が24時間体制で警備しているため、強盗や窃盗の被害に遭う危険性が低いというわけだ。

このような警備兵付き駐車場は、他の地域にも存在する。両江道の情報筋によると、恵山市の松峯洞(ソンボンドン)にある恵山旅客バス運送事業所と恵山長距離運送事業所の敷地には、多いときで60台以上の車がビッシリと停められている。これらのほとんどが、駐車料金を払っているソビ車だ。

恵山長距離運送事業所は、人民保安省の8総局(軍需動員総局)の兵士7人が交替で警備するため、非常に安全だと評判だ。1ヶ月の駐車料金は270元(約4370円)で、庶民にとっては大金だが、ビジネスを展開する車のオーナーからすれば、大した額ではない。カネさえ払えば、何台停めてもいいという料金体系になっている。

このニュービジネスによって、軍の収入がどれほどになっているのかは不明だが、儲けの約3割は部隊の維持費に、残りは大隊長と政治指導員のポケットに入るという。つまり、実際に警備を行っている兵士は何ももらえない。車のオーナーたちは不憫に思ったのか、警備の兵士たちに酒と食事を振る舞っている。

軍が生き延びるため、このようなビジネスに進出するのは自然の成り行きだろうが、その利益を部隊に還元しないとなれば単なる腐敗にしかならない。そうでなくても、軍隊内では軍の上官や職場の上司が部下の女性を「入党させてやる」と誘い出し、性的関係を迫る「マダラス」(マットレス)と呼ばれる「性上納」の強要行為も横行するなど、規律が乱れている。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

金正恩体制が「白頭山革命強兵」と自画自賛する北朝鮮軍だが、その実は腐敗とセクハラが横行するお粗末きわまりないポンコツ軍隊なのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、今月初めの米軍による攻撃で兵士47人死

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F

ワールド

イラン抗議デモ、死者3000人超と人権団体 街中は

ワールド

韓国、米のAI半導体関税の影響は限定的 今後の展開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 10
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中