最新記事

中国

中国「一帯一路」国際会議が閉幕、青空に立ち込める暗雲

2017年5月19日(金)17時56分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

北京で開催された「一帯一路」国際会議の会場で写真を撮るジャーナリストら(5月15日) Thomas Peter-REUTERS

<北京市で開催された「一帯一路」国際会議。巨大イベントの成功のため、庶民の生活が犠牲になったが、よりスケールの大きな「労民傷財」が進行しているのではとの不安の声が出ている>

2017年5月14日、15日の2日間、北京市で「一帯一路」国際会議が開催された。中国からヨーロッパまでユーラシアを横断する巨大経済圏構想「一帯一路」の参加国、協力国の首脳、代表団が集まる一大イベントだ。

習近平政権は毎年、大規模イベントを開催し、成果作りを続けてきた。2014年にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、2015年には抗日戦争勝利記念の大閲兵式、2016年にはG20サミット、そして今年の一帯一路国際会議だ。

中国では毎年、旧暦大みそかに中国版紅白歌合戦と呼ばれる特別番組「春節聯歓晩会(春晩)」が放送されるが、今年は同番組内でG20サミットの成功が大々的に紹介された後、一帯一路国際会議という盛典が開催されることが強調されていた。1月の時点で全中国国民を対象に、政権肝いりの巨大イベントがあると告知されていたわけだ。

【参考記事】「くだらない」中国版紅白を必死に見る人たち

巨大イベントの成功のためには、凄まじい経費と人力が注ぎ込まれる。その象徴が「青空」だ。

2014年には「APECブルー」なる言葉がネットで話題となった。開催地となる北京市では、首脳会議前に近隣の工場が操業停止を命じられたばかりか、建設現場も工事を中止、さらには練炭を使った調理まで禁止されるという徹底した対策がとられ、美しい青空がもたらされたのだった。

かつて伝統中国の皇帝たちは天と対話する力を有していた。その祭礼の場所が世界遺産となっている天壇(北京市内にある史跡)である。雨乞いや水害を止めることも皇帝の仕事の一部だったのだ。習近平もまた青空をもたらす力を持っている。さすがは現代の皇帝だ......と言うべきだろうか。

この習近平の力は「APECブルー」では終わらなかった。杭州で開催されたG20サミットは例外だが、その後のイベントでも「閲兵式ブルー」、そして今年の「一帯一路ブルー」をもたらすことに成功している。

途上国のインフラ整備促進をうたっているが...

青空自体はすばらしい話だが、裏を返せば、工場の操業停止などの迷惑な話がほぼ年に1回のペースで繰り返されていることとなる。

ビッグイベントのたびに聞くのが「労民傷財」という言葉だ。「人民を痛めつけ、その財産を損なうこと。国費のムダ遣い」の意である。仕事のスケジュールがめちゃくちゃになった、地下鉄の安全検査が厳しくなって史上最悪の混雑に......などなど無数の恨み節が聞こえてくる。

ただし、さすがに慣れてきたのか、APECの時ほどには不満は聞こえてこない。逆によりスケールの大きな「労民傷財」が進行しているのではとの不安の声が出ている。

一帯一路は上述の通りユーラシアを横断する巨大経済圏構想だが、最終的にどのような形に発展するかはともかくとして、現時点では途上国のインフラ建設促進が優先課題とされている。

シルクロード基金やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、さらには中国の国家開発銀行、中国輸出入銀行などの金融機関を通じて、途上国に建設資金を供給し、大規模なインフラ整備を促進する計画だ。

【参考記事】ロンドン直通の「一帯一路」鉄道で中国が得るもの

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中