最新記事

シリア

アサドの化学兵器使用はオバマのせい──トランプ政権

2017年4月5日(水)16時46分
ロビー・グレイマー

化学兵器によるとみられる空爆の後、毒を洗い流すために水をかけられる子供 Social Media Website/REUTERS

<シリアのアサド政権は、反体制武装勢力に対して何度も化学兵器を使ってきた。それが再び使われたのは、アサドに対する武力攻撃まで約束しながら実行しなかったオバマのせい、あとはシリア人が決めることだと米政府は言う>

シリア北部の反体制派の支配地域イドリブ県で4日、化学兵器を使ったとみられる空爆があり、死傷者数は数百人を超えるとみられる。現地の医師によると、病院に運び込まれた犠牲者は、サリンなど猛毒の神経ガスの使用が疑われる症状を訴えている。シリアのバシャル・アサド政権は、過去にも神経ガスを使用した疑惑がある。

【参考記事】シリアで起きていることは、ますます勧善懲悪で説明できない

シリアの戦争監視団や医療関係者は当初、死者は少なくとも50人、負傷者は300人と伝えた。一方、シリア国内の人道団体と連携する「医療救済機構連合」は、死者は少なくとも100人、負傷者は400人以上にのぼると報じた。

今回の空爆がアサド政権による攻撃であることが確実となれば、6年に及ぶ内戦の末にシリア政府が反政府勢力をいよいよ潰しにかかっていることを示す最新の事例になる。オバマ前政権と違いアサド大統領への退陣要求からは距離を置いていたドナルド・トランプ政権にとっては、アサドが自国民を無差別に攻撃したとなると対シリア外交の舵取りが難しくなる。

国連の調査によると、シリア政府は2014年と2015年に反体制派の支配地域で化学兵器を使用。4日の空爆は、数百人の死者を出した2013年8月のアサド政権によるガス攻撃以来、最大規模の化学兵器を利用した攻撃となる。

レックス・ティラーソン米国務長官は先週トルコで、「アサドの退陣はシリア人が自ら決めることだ」と発言。米国のニッキー・ヘイリー国連大使も3月30日、アサドの政権打倒は米国の優先課題ではないと語った。

優柔不断なオバマのせい?

ティラーソンは4日、当初はコメントを拒否したものの、数時間後にアサドを「残忍で恥知らずな野蛮行為だ」と述べ、化学兵器を使った空爆を非難した。

米議会の共和党内でも議論になっている。ジョン・マケイン上院議員は、トランプ政権は「反体制派を抑え込むアサド政権を見て見ぬふりをしている」と批判した。また、ティラーソンのトルコでのコメントについて、「米国史上恥ずべき一章」とこきおろした。

「ヘイリーやティラーソンの発言は、アサドを勇気づけるものだ」と、マケインは言った。

ドナルド・トランプ米大統領は、今回の化学兵器攻撃はシリア政府によるものだと認めた上で、これはバラク・オバマ前大統領の「弱さと優柔不断」が招いた「当然の結果」だと声明で語った。

オバマ前政権は2013年8月、化学兵器使用を「レッドライン(越えてはならない一線)」と規定し、シリアへの軍事攻撃に踏み切る姿勢を示したが、化学兵器使用が明らかになっても介入を見送った。また2013年の化学兵器使用後には、アメリカとロシアがシリアの化学兵器廃棄に乗り出したが、完全廃棄には至らなかったか、製造が続いていたと見られる。

【参考記事】シリア政府は本当に化学兵器を使ったのか
【参考記事】ロシアはシリアから化学兵器を奪い取れるか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月経常収支は2兆8335億円の黒字=財務省

ワールド

中国機の安全阻害との指摘当たらず、今後も冷静かつ毅

ビジネス

バークレイズ、英資産運用大手エブリン買収を検討=関

ワールド

独仏首脳、次世代戦闘機開発計画について近く協議へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中