最新記事

米中関係

トランプ人事は中国を封じ込められるか?――ティラーソン国務長官就任

2017年2月3日(金)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

マティス国防長官が就任早々に韓国を訪れ(2月2日)、北朝鮮との問題に関して米韓同盟の重要性を強調し、本日3日には訪日して日米同盟の継続的強化や尖閣諸島が日米同盟の防衛対象だということを日米で確認し合うことになっている。中国はこのことにも苛立ちを露わにしている。

こうして、トランプ政権による対中包囲網形成に対して警戒する一方、中国では興味深い報道が目立つ。

「ティラーソンは中国にも食い込んでいる」という報道

それは「ティラーソンは1300人の中国人労働者の雇用主だ」という報道である。中国のネット空間では、この情報が早くから、さまざまな形で転載されている。

それによれば、 エクソンモービル社のホームページに「本社の中国における業務は1890年代(清王朝晩期時代)にさかのぼる」と書いてあるとのこと。前身は"Standard Oil"という石油会社で、中国で商売をしていた。中国ではこの会社の名前を「洋油」(西洋の石油)と呼んでいたようだ。

現在、エクソンモービルは中国で「地下資源探査、天然ガス販売、化学工業や発電」など、多くの事業を手掛けており、福建省には45億ドルを投じた石油製錬プロジェクトも展開している。従業員は1300人とのこと。今後、750カ所のガソリンスタンド設立に向けて動いている。

ロシアへの投資が「数十億ドル」と概数ではあるが、中国への投資額45億ドルと比べて、大差ない。

中国の報道では、ティラーソン氏がこの中国への投資と業務、あるいは雇用労働者をどう扱うかによって、米中関係の一端が見えてくるだろうと分析している。

中央テレビ局CCTVでも、ティラーソンの就任が、いかに民主党などによって反対されたかということばかりを報道していた。

こういった全体の流れから見えてくるのは、「親露派の国務長官を選んだからと言って、それがすぐさま、"中国が敗退したことにはつながらない"」といった、敗北感を跳ね返そうというトーンだ。まあ、「負け惜しみ」といったところか...。

プーチン大統領が個人的にティラーソン氏に目をつけ友情を温めたのに対し、習近平国家主席は特にそういうことをせず、目にとめていなかったという違いには注目していない。いや、ティラーソン氏自身が、特に習近平という男を尊敬し友情を温めようとしなかったということであったのかもしれないが。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中