最新記事

北朝鮮

金正恩の「粛清の嵐」はガセネタか?

2016年9月8日(木)16時00分
ジョン・パワー

KCNA/REUTERS

<韓国統一省は北朝鮮の教育担当副首相が処刑されたと発表したが、過去の韓国メディアや情報機関の粛清説には事実誤認もあるため、うのみにはできない>(写真は社会主義青年同盟大会でスピーチする金正恩氏)

 北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジヨンウン)の「血の粛清」リストに新たに2人の政府高官の名前が加わった――そんなニュースが8月末、北朝鮮ウオッチャーを騒がせたが、信憑性には疑問符が付く。

 8月30日付の韓国紙・中央日報は、黄敏(フアン・ミン)前農業相とイ・ヨンジンなる教育省高官が8月初めに公開処刑されたと伝えた。処刑の理由は会議中に金正恩の前で居眠りするなど反革命的な態度を取ったことで、高射機関銃で処刑されたという。

 中央日報は匿名の「消息筋による」としてこの話を伝えた。これは韓国のメディアが裏の取れていない北朝鮮情報を発表するときの決まり文句だ。

 さらに情報を錯綜させたのは、中央日報の報道の翌日、韓国統一省が記者会見を行い、北朝鮮の金勇進(キム・ヨンジン)教育担当副首相が処刑されたと発表したことだ。中央日報の伝えたイ・ヨンジンとは金勇進のことなのか?

【参考記事】北朝鮮の実験のたびに無力化する米ミサイル防衛

 処刑が事実だとすれば、このタイミングで金正恩が粛清に乗り出したのはうなずける。北朝鮮の在英大使館に勤務していたテ・ヨンホ公使が今年7月に失踪し、韓国政府に保護されていることが分かったばかりだからだ。エリート外交官の脱北は金体制の危うさを印象付けた。

 だが韓国メディアが伝える粛清説には疑わしい話が少なくない。今年2月に韓国メディアが処刑されたと伝えた李永吉(リ・ヨンギル)・前朝鮮人民軍総参謀長は、今年5月に健在が確認された。この誤報で韓国のメディアと情報機関の面目は丸つぶれになった。

 北朝鮮事情に詳しいアナリストのマイケル・マッデンによると、今回の中央日報の記事には明らかな事実誤認があるという。「黄は今年6月に農業相を解任されたと書かれているが、解任されて副首相に降格したのは14年だ。今年6月に降格されて先月処刑されたと言えば、つじつまが合うからだろう」

 韓国メディアの「消息筋による」式の北朝鮮報道は、うのみにしないほうがよさそうだ。

From thediplomat.com

[2016年9月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師死亡と報道、トランプ氏「

ワールド

アングル:イラン攻撃に踏み切ったトランプ氏、外交政

ワールド

イラン情勢、木原官房長官「石油需給に直ちに影響との

ワールド

茂木外相、「核兵器開発は決して許されない」 米攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 3
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKIが語った創作と人生の覚悟
  • 4
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 5
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 8
    トランプがイランを攻撃する日
  • 9
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 10
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中