最新記事

インタビュー

タランティーノ最新作『ヘイトフル・エイト』、美術監督・種田陽平に聞く

映画美術の仕事の醍醐味から、「タランティーノ組」の楽しさまで

2016年2月26日(金)18時40分
大橋 希(本誌記者)

誰もがくせ者 過剰なまでの会話劇とバイオレンスがタランティーノ作品らしい (C)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

 クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』は、西部劇と密室ミステリーを掛けあわせた痛快作(日本公開は2月27日)。雪嵐の山中でロッジに閉じ込められたクセ者8人が、ある殺人をめぐってだまし合いを繰り広げる。多彩な俳優陣、タランティーノらしいせりふの応酬、ブラックな笑いとバイオレンス――3時間近い上映時間だが決して飽きさせない。

 この映画で美術監督を務めているのが種田陽平だ。タランティーノ作品は『キル・ビルVol.1』(03年)以来、二度目となる。

 種田はこれまで国内外のさまざまな映画監督と組み、その世界観を具現化してきた。三谷幸喜監督の『清州会議』『ザ・マジックアワー』、米林宏昌監督の『思い出のマーニー』のほか、チャン・イーモウ監督の『金陵十三釵』、ウェイ・ダーション監督の『セデック・バレ』などなど、数えきれないほどの参加作品がある。

 監督や俳優のように目立つ存在ではないが、映画に対する印象を大きく左右するのが美術監督の仕事。その醍醐味から「タランティーノ組」の現場の楽しさまで、存分に語ってもらった。

――『ヘイトフル・エイト』はどんな製作現場だった?

 ハリウッド映画ではたいていスタジオやプロデューサーが力を持っていて、監督が決定権をすべて持っている訳ではない。でもタランティーノ映画は、タランティーノが全部決める。何もかも。プロデューサーたちは、タランティーノがやりたいことを実現させるために集まっているという感じです。

『ヘイトフル・エイト』はアメリカの南北戦争後、1800年代の物語で、そこでわざわざアジア人のプロダクションデザイナーを使うという発想は今のハリウッドにはないと思う。クエンティンは――ここは重要なんだけど――クレイジーだってよく言われるが、それとは違っていて、彼はすごく公平な人なんです。人種差別や偏見のない男なのね。だから、「今回のこの映画の美術には種田陽平がいいと思うんだ」っていう発想になる。

 クエンティンに言われたのは、例えばアメリカの1980年代の映画なら種田がやる意味はあまりない、でも西部劇の時代なんて誰も実際には知らないから、自由に製作できるだろう、ということだった。

【参考記事】X JAPANの壮絶な過去と再生の物語

――タランティーノと組むのは『キル・ビルVol.1』以来だが、彼の変わったところ、変わらないところは。

『キル・ビル』のとき彼は39歳か40歳だったと思う。だからまだ若手監督の感じが残っていた。もちろんすでに有名で、正確には若手ではなかったが、若手っぽいノリもあった。

 でも今回は、本人の態度もそうだけど、周りの扱いも巨匠監督になっていてびっくりした。そこが変わったな、と思うところです。日本では、タランティーノというとコミカルなイメージがあるかもしれない。でもあれは本人のサービス精神のなせるわざで、本当はそういう人じゃない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中