最新記事

総選挙

変化の風に揺れる強権国家シンガポール

建国の父リー・クアンユー死去から半年、自由で成熟した社会を求める声が高まっている

2015年9月10日(木)17時00分
トム・ベナー

厳しい規制にNO 性的少数者への理解を深めるイベント参加者も年々増えている Edgar Su-REUTERS

 マレーシアから独立した約50年前、シンガポールは小さな漁業の島だった。天然資源に乏しく、マラリアの流行や貧困に苦しめられ、民族間の緊張があり、問題ばかりが山積していた。

 それが今や、世界有数の豊かな国だ。資産総額100万ドル以上の富豪が総人口に占める割合は、カタールとスイスに次ぎ世界第3位。治安の良さや街の清潔さ、ビジネスのしやすさでも世界トップクラスに位置する。

 ではなぜ、多くのシンガポール人は自分の国に不満を抱いているのだろう。「建国の父」リー・クアンユー元首相が3月に死去して以来、国民、特に若い層では、強権政治と規制によって縛られ、守られてきたこの国に変化が必要だと考える人が増えているようだ。

 これを受けて、政府も一部の規制を緩和し始めている。

 国民生活は多くの厳しい規則で縛られている。公共の場所でゴミを捨てれば、初犯でも罰金は最高1000シンガポールドル(約8万5000円)だ。

 チューインガムの販売が禁止されているのは有名な話で、違反すれば罰金は最高2000シンガポールドル(約17万円)。もっとも、ガムの話だけを取り上げてこの国を論じることにシンガポール人自身は違和感を感じており、規制緩和を求める声は聞かれない。

 シンガポールは近年、こうした厳しい刑法の一部を改訂しつつある。むち打ち刑の執行はかなり減ったし、12年には麻薬密輸で有罪の場合は必ず死刑とする条文が廃止された。

 報道の自由や人権の分野でも問題は多い。

 報道機関は免許制で、道徳や安全保障、公益や民族間の調和の観点から好ましくないと思われるテーマについて報道することは禁じられている(ただし規制されるテーマが明文化されているわけではない)。

 規制に挑戦する動きも出てきた。リー元首相の死の直後、16歳のブロガーの少年が「リー・クアンユーがやっと死んだ」と題した元首相を非難する動画をネットで公開。別のブロガーは教会のスキャンダルになぞらえる形で政府批判を行った。

総選挙の結果に注目

 だが2人とも、リー元首相やその息子であるリー・シェンロン首相を中傷したとして有罪となった。こうした締め付けに対し国民からは、シンガポールは挑発的な批判も受け入れられるくらいに成熟した国家になるべきだとの議論が湧き起こった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄、今期純利益は42%減の見通し 市場予想比

ビジネス

リクルートHD、今期10%増益予想 米国など求人需

ビジネス

午後3時のドルは145円半ばへ小幅反落、楽観続かず

ビジネス

再送中国SMIC、第1四半期は利益2.6倍 関税影
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 10
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中