最新記事

独裁者

「民主化」トルコを売った男

"Treason" in Turkey

政府を批判するジャーナリストや国民を弾圧。エルドアン首相の強権体質は今に始まったことじゃない

2013年6月12日(水)12時44分
オーエン・マシューズ(イスタンブール)

 トルコのエルドアン首相は改革派で、ロシアのプーチン首相は独裁者──そんな思い込みは捨てたほうがいい。

 よく見ると、この2つの国では似たようなことが起きている。政府を批判したジャーナリストは投獄されるし、権力者に逆らう政治家は司法当局ににらまれ、裁判なしで何カ月も、時には何年も刑務所にぶち込まれる。政府に批判的な実業家には法外な税金が課される。

 それに、トルコは少なくとも2つの点でロシアより悪い評価を受けている。国境なき記者団が発表した報道の自由度ランキングでは、ロシアの142位より低い148位。欧州人権裁判所によれば、トルコでは昨年だけで174件の人権侵害があった(ロシアは133件)。

 一体何が起きているのか。レジェップ・タイップ・エルドアンは9年前、軍部の政治介入をやめさせてトルコを「先進的な民主国家」にするという公約を掲げ、圧倒的支持を得て首相になった。就任当初は公約どおり改革に取り組み、ヨーロッパもそれを歓迎した。05年にはEU(欧州連合)への加盟交渉も始まった。

 だが07年の爆弾テロ未遂事件をきっかけに、改革の歯車が狂い始めた。

 捜査当局はこの事件を、超愛国的な将校たちから成る地下組織「エルゲネコン」がクーデターを計画したものと断定し、大々的な摘発に乗り出している。これまでにジャーナリスト100人以上に加え、約250人の軍関係者が投獄された。非合法化されているクルド労働者党(PKK)の活動家や支援者として逮捕された人は、既に3500人に上る。

 こうした逮捕がエルドアンの直接の指示によるものか、それとも彼が、たまたま自分の政治目的にかなう捜査を行っていた「熱心過ぎる」検察官に同調しただけなのかは定かでない。

 確かなのは、エルドアンがエルゲネコンの訴追を支持していること、そして報道の弾圧に対する国際社会からの批判を単なる「中傷」だとはねつけていることだ。

マスコミが抵抗しない訳

 2月初旬、検察は政府にまで牙をむいた。PKK側と「国家反逆罪に相当する」接触を持った疑いで、エルドアンの腹心で国家諜報機関(MIT)トップのハーカン・フィダンに対する事情聴取を行ったのだ。

 確かにMITはPKKとの協議を行っていた。だが、それはクルド系住民と政府の和解を目指すエルドアンの指示によるものだった。「検察内部には和解を望まない者がいるようだ」と、トルコ情勢に詳しい政治アナリストのグレンビル・バイフォードは言う。「彼らにとっては、PKKへのいかなる譲歩も国家反逆罪に等しい」

 トルコでは10年に司法制度の改革が行われ、ヨーロッパもこれを歓迎した。中立的で公正な司法制度ができるはずだったが、現実には自身の政治的な思惑で強大な権力を行使する検察官がいる。その結果、銃ではなく逮捕令状を武器とする内戦が始まってしまった。

ニュース速報

ワールド

ギャラクシーノート7の発火、電池の欠陥が原因=韓国

ワールド

北朝鮮の核の脅威「差し迫る」、対話で解決できる状況

ビジネス

英首相、EU離脱後の産業活性化戦略公表へ 企業への

ビジネス

ロイター企業調査:トランプ氏へ日米安保や自由貿易の

MAGAZINE

特集:トランプ・ワールドの希望なき幕開け

2017-1・24号(1/17発売)

ドナルド・トランプがついに米大統領就任へ──。「異次元の政治家」にできること、できないこと

人気ランキング

  • 1

    テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

  • 2

    アパホテル書籍で言及された「通州事件」の歴史事実

  • 3

    トランプの妻メラニアが大変身、でも勝負服が裏目に

  • 4

    保護主義打ち出すトランプ大統領、日米関係は混迷の…

  • 5

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 6

    ドナルド・トランプ第45代米国大統領、就任演説全文…

  • 7

    早くも市場で冷めつつあるトランプ熱 投資家は政策…

  • 8

    トランプ就任演説、挑発的な姿勢はどこまで本物なの…

  • 9

    トランプの本心を身ぶり手ぶりで読み解く

  • 10

    警官に抑え込まれた反トランプ派、200人以上逮捕

  • 1

    ドナルド・トランプ第45代米国大統領、就任演説全文(英語)

  • 2

    アパホテル書籍で言及された「通州事件」の歴史事実

  • 3

    テレビに映らなかったトランプ大統領就任式

  • 4

    南シナ海の人工島封鎖で米中衝突が現実に?

  • 5

    北朝鮮が国家ぐるみで保険金詐欺、毎年数十億円を稼ぐ

  • 6

    トランプ大統領就任式ボイコット続出、仕掛け人のジ…

  • 7

    日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差…

  • 8

    北朝鮮外交官は月給8万円、「誰も声をかけてこない…

  • 9

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 10

    オバマ、記者団に別れ「まだ世界の終わりではない」

  • 1

    オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

  • 2

    キャリー・フィッシャー死去、でも「2017年にまた会える」

  • 3

    「知能が遺伝する」という事実に、私たちはどう向き合うべきか?

  • 4

    トランプ当選初会見でメディアを批判 ツイッターな…

  • 5

    日本の制裁措置に韓国反発 企画財政省「スワップ協…

  • 6

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 7

    韓国ユン外交部長官「釜山の少女像は望ましくない」

  • 8

    ドナルド・トランプ第45代米国大統領、就任演説全文…

  • 9

    安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろ…

  • 10

    独身男性の「結婚相手は普通の子がいい」は大きな間…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本の観光がこれで変わる?
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 臨時増刊

世界がわかる国際情勢入門

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2017年1月
  • 2016年12月
  • 2016年11月
  • 2016年10月
  • 2016年9月
  • 2016年8月