最新記事

フランス

まんまと「侵入」を許した原発のお粗末

福島第一原発事故に続き、安全神話のもう一つの抜け穴を暴露したグリーンピースの侵入作戦

2011年12月6日(火)17時38分
リン・ラ

抜け穴だらけ 狙われたノージャンシュルセーヌの原発施設 Jacky Naegelen-Reuters

 12月5日、フランスでは原子力行政関係者が2ヵ所の原子力発電所を抜き打ちで視察に訪れることになっていた。だが、国内の別の原子力発電所を襲ったのは、それ以上のサプライズだった。環境保護団体グリーンピースの活動家らが、警備の目を盗んで敷地内に侵入し、原子炉の近くにまで到達したのだ。

 狙われたのは、パリから100キロほど南東に位置するノージャンシュルセーヌの原子力発電所。グリーンピースのメンバーらは原子炉建屋の外壁に「やった!」「簡単!」などと書かれた横断幕を掲げた。AP通信はその様子をこう伝えている。


 ドーム形の原子炉建屋に登って、「安全な原子力は存在しない」という幕を掲げ、危険を示唆するびっくりマークを屋根にペンキで描いた者もいた。(中略)グリーンピースによれば、福島第一原子力発電所が津波で破壊された事故を受けてフランス当局が命じた安全基準の見直しが自然災害だけに特化しており、人的「災害」を考慮に入れていないことを、今回の侵入で示したかったという。


電力業界に徹底調査を指示

 グリーンピースは、他にも3つの原発でも侵入を試みたものの、警備当局に阻止された。だがノージャンシュルセーヌ原発に侵入して逮捕されたメンバーらが、他の原発への侵入に成功した仲間がいると語ったため、当局は国内20カ所の原発すべての調査に乗り出した。

 ブルームバーグによれば、事件について知らされたニコラ・サルコジ仏大統領は、「自分と他人の命を危険にさらす無責任な行為だ」と非難したという。
 
 それでも、グリーンピースの奇襲作戦のインパクトは抜群だったようだ。エリック・ベッソン産業担当相は「このような事態が二度と起きないよう手立てを講じる」必要があると発言。産業担当省も、原子力業界に徹底的な調査を求めると語っている。

 原子力大国フランスでは、国内の電力需要の4分の3近くを原発に依存している。反原発デモが頻発しているわけではないが、先月には放射性廃棄物の輸送をめぐってデモ隊と当局が衝突する事件があった。グリーンピースが暴露した原発の安全神話の「抜け穴」は、国民の不信を招く新たな火種になりかねない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブラザーが価値向上策示せば、TOBに応じる可能性=

ビジネス

インテル、ASML次世代半導体装置を組み立て 世界

ビジネス

独経済、第1四半期はプラス成長の公算 回復兆候とは

ビジネス

ブルガリアのユーロ導入、数カ月後ずれも=中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中