最新記事

韓国社会

外国人花嫁の死が物語る韓国の病理

ベトナム人妻殺害事件は野放しの国際結婚ビジネスと、韓国にはびこる「単一文化」信仰の表れだ

2011年6月7日(火)17時51分
スティーブン・ボロビッツ

同質性の壁 国際結婚家庭は経済的にも恵まれない(ソウルにある移民女性のための支援センター) Jo Yong hak-Reuters

 5月24日、韓国東南部で農業を営む37歳の男性が、23歳のベトナム人妻を刺殺する事件が起きた。殺された妻の隣で眠っているのは、夫婦の間に生まれたばかりの生後19日の赤ん坊。男性は国際結婚を斡旋するブローカーの紹介で、この女性と結婚していた。

 国際結婚家庭の悲劇は、これが初めてではない。昨年も、結婚のわずか1週間後に夫がベトナム人妻を殺害する事件があった。08年には、韓国人の夫と義母に苛められたベトナム人女性がアパートから飛び降りて自殺した。

 繰り返される惨劇は、急速に変わりつつある人口分布と国際結婚をめぐる障壁から目を背け続ける韓国社会の病根を照らし出している。利益追求に走る結婚斡旋業者に対する監督体制は不十分で、関係省庁の足並みも揃っていない。

 いや、もしかしたら当局は、あえて現状を放置しているのかもしれない。移民の受け入れに消極的で、同質文化のアイデンティティを守る志向が強いことで知られる韓国社会において、外国人花嫁は見て見ぬふりをすべき存在なのだ。

 だが現実に、外国人花嫁は増え続けている。地下鉄の車内には美容整形や英語学校の広告に混じって、近隣諸国出身の心優しい女性と簡単に結婚できると謳った斡旋業者のチラシが並んでいる。

男性の精神疾患を女性側に伝えなかった斡旋業者

 ベトナム出身のグエン・ゴク・カムが韓国人男性と結婚したのは13年前のこと。「最初は大変だった。韓国語はまったく話せないし、韓国文化にも馴染めなかった」と、35歳の彼女は言う。当局の支援はまったくなく、「自力でやるしかなかった。時間をかけて自信を取り戻した」。

 結局、グエンはソウル近郊の南楊州市に居を定め、建築関連の技術者である夫とのコミュニケーションを取るために韓国語を勉強した。夫婦の間には10歳と12歳の子供がいる。

 韓国保健社会研究院によれば、韓国在住の外国人の数は推定120万人で、そのうち10万人以上が外国人花嫁だという。保健省が2010年3月に行った調査では、外国人花嫁のうちベトナム人女性とフィリピン人女性がそれぞれ19.5%と6.6%を占める。最も多いのは中国系韓国人で30.4%だ(漢民族が27.3%)。

 だが、政府は統計を取るばかりで、彼女たちが韓国社会にスムーズに溶け込むための役割を果たしているとは言いがたい。国際結婚家庭の支援に関与すべき3つの省(女性省、教育スポーツ省、保健省)が適切に連携していないことも問題解決を難しくしている(どの省もこの記事の取材依頼に返答を寄こさなかった)。

 斡旋業者による花嫁のサポートも望めない。外国人妻には言語的、文化的なハンディーがあるだけではない。ベトナム人妻を殺害した2人の男性には精神疾患の病歴があったが、女性側にその点が事前に伝えられることはなかった。6月2日に女性省の建物前で行われた追悼式典でデモ隊が掲げたプラカードには、「斡旋業者よ、自分が何をしたかわかっているのか」と書かれていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、金利変更の選択肢残すべき リスクに対応=仏

ビジネス

ECBは年内利下げせず、バークレイズとBofAが予

ビジネス

ユーロ圏10月消費者物価、前年比+2.1%にやや減

ワールド

エクソン、第3四半期利益が予想上回る 生産増が原油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中