最新記事

パワーシフト

中国エリートは欧米を目指さない

アメリカも今や学歴に箔を付ける通過点に過ぎず、成功を賭けた勝負の舞台は母国・中国か新興国だ

2010年11月12日(金)14時58分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

夢見る活力 中国さえ「普通の国になりつつある」と、アフリカを目指す学生も(武漢大学の卒業式) China Daily-Reuters

 最近北京を訪ね、中国の名門・清華大学に属する「ベスト・アンド・ブライテスト(最良で最も聡明な人々)」と言われる学生たちに会った。競争の激しさを考えれば、優秀さは折り紙付きだ。

 物理の天才だというピンクのセーターを着た女子学生に卒業後の計画を聞くと、既に奨学金を獲得してアメリカのスタンフォード大学でMBA(経営学修士号)を取る予定だという。その後は?

「たぶんしばらくはアメリカに残って、マッキンゼーかシリコンバレーのベンチャーキャピタルで働くと思う」「それから中国に戻って会社を始める。お金を十分稼いだら、引退してヨーロッパに移住して、両親にも旅行してもらう」

 彼女の人生計画は、若い中国人エリートの優先事項(高学歴を得て金持ちになり、両親の面倒を見る)をよく表しているだけでなく、いま世界で起こっている富と力の地殻変動も如実に物語っている。

欧州に対し「上から目線」

 欧米、特にアメリカは、かつて世界で最も上昇志向の強い人々の最終目標だった。だが今は、世界のエリートにとっての通過点でしかない。本気でビジネスに取り組み、富の創造を始める前に、学位を取って履歴書に箔を付けるための場所だ。

 彼らにとっては、新興諸国こそリッチで有名になるための舞台だ。今後数十年の世界経済の成長の大部分は新興諸国が担うだろう。

 前述の女子学生の世界観で最も興味深いのは、ヨーロッパでさえ完全に落伍者と見なしているところだ。豊かな文化と美しい風景に恵まれてはいるが、ほかには大して面白いことのない国々。引退生活向けの、ちょっと高級感のあるコミュニティーといった感じだ。

 先週も、彼女の世界観を思い起こさせるニュースが相次いだ。EU(欧州連合)との首脳会談を控えた中国の温家宝(ウエン・チアパオ)首相は、欧州諸国の政府債は売却せず、ユーロ相場の安定を支援すると請け合った。これは、かつて先進国が格下の新興国に対して見せた、寛容だけれどどこか優越感の漂う態度ではないか。

 同じく先週、中国がトルコと合同軍事演習を行っていたことも明らかになり、世界の多極化を印象付けた。
その1週間前には、中国を含むアジア太平洋地域の富裕層人口が初めてヨーロッパと並んだと、米資産運用会社メリルリンチと仏コンサルティング会社キャップジェミニが発表した。アメリカは今も首位を維持しているが、差はどんどん縮まっている。

 中国人はもう、世界の中で欧米が優位にあるとは見ていない。欧州のシンクタンク、ヨーロッパ外交評議会は先週のリポートで、中国人は「ヨーロッパの国際的な地位の低下は擁護しようがない」と考えていると書いた。

 先週、ギリシャのヨルゴス・パパンドレウ首相と温の首脳会談でもそれは明らかだった。温は財政危機にあえぐギリシャの国債を買い増す見返りに、中国を市場経済国として認定し、EUの対中武器禁輸の解除を後押しするよう求めた。提案に込められたメッセージは、「中国はヨーロッパの安定に貢献するが、それにはヨーロッパも中国に協力するという条件が付く」というものだ。

 中国政府は、引きずっていた植民地時代の被害者意識をいくらか克服したようだ。中国が事あるごとに「貧しい」国だと強調するのは相変わらずだが、それはまだ途上国だからいろいろな面で特別扱いしてほしい、という意味合いが強い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ソロモン諸島の地方選、中国批判の前州首相が再選

ワールド

韓国首相、医学部定員増計画の調整表明 混乱収拾目指

ワールド

イスラエルがイラン攻撃と関係筋、イスファハン上空に

ワールド

ガザで子どもの遺体抱く女性、世界報道写真大賞 ロイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中