最新記事

軍事

激化する無人機空爆の波紋

パキスタンでのアルカイダ討伐作戦で無人攻撃機を使った爆撃が急増。その有効性と正当性をめぐる議論が高まっている

2009年10月28日(水)18時11分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

リモコン攻撃 無人機で数百人の民間人が殺されたという説も(写真は01年に米ネバタ州で撮影されたプレデター) Reuters

 10月半ばから、パキスタン政府はアフガニスタンとの国境を接するワジリスタン地域で、アルカイダとタリバンに対して激しい攻撃を展開している。同時にアメリカもパキスタン領内で密かに対テロ作戦を続けており、今後おそらく強化していくとみられている。

 そこで多用されることになりそうなのが、プレデターなどの無人機を使ったアルカイダ関連の標的の爆撃だ。作戦は極秘で行われるため、無人機が爆撃を行った日時、場所、理由などが公表されることはない。

 しかし爆撃の頻度が増えるにつれて、その有効性と道徳性をめぐる議論が高まってきた。なかには、リモコンを使った「ピンポイント殺人」と批判する声もある。

 CIA(米中央情報局)が無人機を使い始めたのは10年以上前のこと。アフガニスタンの荒野に潜伏するウサマ・ビンラディンとその仲間を捜索するのが狙いで、無人機に搭載されていたのはカメラだけだった。

 しかし98年のケニアとタンザニアの米国大使館爆破事件や、00年のイエメンでの米駆逐艦コール爆破事件など、ビンラディンによるアメリカへの攻撃が激化したことで、クリントン政権の国家安全保障担当者らは、無人機に空対地ミサイルを搭載することを強く推奨した。それでも、実際にミサイルが発射されるのは(9・11テロ後でさえ)まれだった。

 状況を大幅に変えたのが、ジョージ・W・ブッシュ前米大統領だ。かつて米国防総省がプレデターによる攻撃をパキスタン領内で承認するのは、米情報機関が特定の場所と時間に「価値の高い標的」がいると「90%」確信している場合に限られた。しかし08年夏にブッシュがルールを変更し、確信が50~60%でも「外国出身の戦闘員」が潜伏している疑いのある場所を爆撃できるようになった。

民間人の犠牲者をめぐる大論争

 バラク・オバマ米大統領は、ブッシュ時代と同等のペースで爆撃を行ってきた。アルカイダに精通するジャーナリストのピーター・バーゲンとニューアメリカ財団が共同でまとめた調査報告によれば、オバマは爆撃の頻度を「激増させた」という。

 それによるとオバマが今年1月に大統領に就任して以来、パキスタンで行われた無人機攻撃は41回。ただしその数が、ブッシュ政権時代と比べて「激増」と言えるのかは分からない。ブッシュ政権最後の6カ月の間に、こうした攻撃はすでに急増していたからだ。

 無人機攻撃が増えたことで、それがいつどこで行われ、誰を標的にしたものかといった目撃情報や報道も増加してきた。同時に攻撃の有効性や、民間人の犠牲者をめぐる議論も激しくなってきた。

 ニューアメリカ財団が信頼性の高い報道をもとに行った推測によれば、06年から09年10月までに無人機攻撃で死んだ人の数は500~700人。うち250~320人は民間人だという。

 しかし軍事関連ブログのロング・ウォー・ジャーナルは今月、民間人の犠牲者の割合は10%未満で、「極めて少ない」との見方を示した。さらに、標的の90%はパキスタン軍が討伐作戦を展開するワジリスタンに集中していると分析している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中