最新記事

米大統領選

性差別を受け入れたロムニー妻の包容力

共和党の大統領候補ロムニーの妻アンは、性差別に耐える女性の道徳的優越性を訴えて女性有権者の共感を勝ち取った

2012年8月30日(木)13時18分
アマンダ・マルコッティ

スター誕生? 女性差別に共感しながら保守派を喜ばせたアン・ロムニー Shannon Stapleton-Reuters

 フロリダ州タンパで8月28日に開催された共和党大会は、実に女性にアピールする内容の大会だった。

 中でも見事だったのが、大統領候補ミット・ロムニーの妻アンの演説。女性が女性であるというだけで日々直面する不公平を語った。女子大生クラブのノリを交えながら、極力感傷を排して、「不公平のリスト」を挙げた。筆者の耳を捉えたのは次の部分だ。


 よく耳を澄ませてごらんなさい。女性のほうが男性より少し多くため息をついてる。そういうものでしょ?

 すべてがうまくいくように、少し余分にがんばって働かなければならないのは、いつも母親。

 独身者であれ、既婚者であれ、未亡人であれ、この国を本当の意味で団結させているのは母親たち。

 そうでしょう?

 あなたたちこそが、いつも少しだけ余分に頑張らないといけない。

 職場で尊敬を勝ち得るために昼間余計にがんばり、それから帰宅して子供の読書感想文の手伝うのがどんな大変か、知っているのはあなた。

 高齢の親から夜中の電話を受けたり、週末に彼らの様子を見に行くために長い時間運転するのがどんな辛いか知っているのはあなた。

 病院の緊急治療室への近道や、夜中に電話できる医師が誰かを知っているのもあなた。


 アン・ロムニーが示したのは、フェミニストの女性が根絶を目指してきた「システム化された性差別」そのものだ。もしフェミニストの草分けのグロリア・スタイネムが同じ発言をしていたら、フェミニズムを糾弾する保守派のトークショーホスト、ラッシュ・リンボーは放送中から大騒ぎをして「リベラル派のナンセンス」と叩きまくったに違いない。だがアンの口から出れば話は違う。彼女は、女性は男性より給料が低く、尊敬も受けない環境で懸命に働いている実態を説明しただけ。公正に、率直に。

戦うのではなく「共感」する

 なぜアン・ロムニーの発言なら許されるのか。それは、彼女がこれを正すべき問題としてではなく、女性が耐え続けなければいけない試練として取り上げたからだ。より多くの努力をしている分だけ、女性はより輝いている。平等を求めるのでなく、自分たちの信じる価値観に「殉教」しなさい――アンはこう女性に語りかけた。

 実際のところ、これはとても新鮮だった。大抵の場合、アメリカにおける性差別論争は、「事実」をめぐる争いだ。フェミニストが性差別は存在すると言う一方で、反フェミニストは男女平等は基本的に実現しており、そもそも能力的に劣るから女性は男性に遅れをとるのだとほのめかす(もちろん、これ自体が性差別なのだが)。

 アン・ロムニーは毅然と立ち上がり、性差別は現実として存在し、女性の生活に影響を与えていると認めた。戦うのではなく女性たちに共感した。そして女性は実は男性より道徳的に優れているのだ、と彼女たちを慰めた。女性たちよ、平等という幻想にとらわれるな、とでも言っているかのようだった。確かに私たちは人生や暮らしが実際にどんなものか分かっている。女性有権者へのアピールは満点、実に効果的なスピーチだった。

© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極

ワールド

タイとカンボジア、戦闘継続 トランプ氏との電話協議

ワールド

フィリピン中銀、0.25%利下げ 予想通り

ビジネス

日経平均は続落、FOMC通過で出尽くし ソフトバン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中