最新記事

ポピュリズム

アメリカ高学歴エリートたたきの危うさ

2010年10月13日(水)18時36分
アン・アップルボム(コラムニスト)

 能力主義のおかげで成功した人をエリートと呼べば、「エリート」という言葉は意味を失ったことになる。サラ・ペイリン前アラスカ州知事やデラウェア州上院選の共和党候補者クリスティン・オドネルが政敵に対して「エリート主義者」という言葉を投げつけるとき、それは「私の嫌いな政治的立場の人物」とか「気取った人物」くらいの意味しか持たない。

 しかしオドネルが選挙広告ビデオで、「私はエールに通わなかった。あなたと同じです」と誇らしげに語るのを聞いて、私はもっと深い何かが起きていると感じた。

このままでは能力主義も終わる

「能力主義の台頭にも関わらず」、ベルが予言した反エリート教育主義が拡大している――というのは間違いで、「能力主義の台頭ゆえに」ではないのか。かつての支配者層が恨みを買っていたのは、彼らの富や権力が「不当」なものと見られていたからだ。少なくとも一般大衆は、自分たちは支配者層より知識も経験もあるのに、「体制」のせいで不遇なのだと批判できた。

 今日では、成功したアメリカ人は、それが途方もない幸運のおかげであっても、得意になって自分は「それだけの能力がある」と考える。一方、成功できなかった人は運が悪かっただけだとしても、それは自分のせいだと考える傾向が強い。

 後者がどれだけ腹立たしく、辛い思いをしているかはよく分かる。だがだからといってどうしようというのか。トーマス判事の妻ジニーは、バージニア州のティーパーティーの集会で「我々の支配層は、自分たちは我々より物を知っていると思っている」と言って聴衆をわかせた。だが、いったい誰がその「エリート」の代わりをするというのか?

 アメリカではおそらく、能力主義はゆっくりと終わりを迎えるだろう。一生懸命に勉強し、いい大学を卒業しても非難されるだけなら、わざわざ努力しなくたっていい。たとえ努力しても、そういう人物が歓迎されない政治の世界には足を踏み入れない。そして国を仕切るのは違った種類のエリートになり、我々はまた違った理由でそのエリートを嫌うのだろう。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国がカナダの選挙に執拗に介入、情報機関が警告

ワールド

英国境管理システムに一時障害、技術的な問題で 空港

ワールド

台湾軍、新総統就任前後の中国の動きに備え

ビジネス

英アストラゼネカが新型コロナワクチン回収開始、需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中