最新記事

教育

大学生にパソコン禁止令!

暇つぶしにサイトで遊ぶ、自分の頭で考えないといった弊害を理由に、ノートパソコン禁止の授業が増えている

2010年7月12日(月)13時09分
ローラ・モートコウィッツ

 パソコンの使用を勧めるべきか、禁止すべきか──教師たちは悩ましい問題に直面している。

 教育界では以前から、大手ハイテク企業と提携してパソコンを教室に導入する動きが活発だった。途上国の貧しい子供を対象にした「子供1人に1台のノートパソコンを」運動は、その代表例だ。

 だが小学校からパソコンになじんできた世代は、キャンパスに吹き荒れるノートPC排斥の嵐に困惑する羽目になるかもしれない。

 シカゴ大学法科大学院は08年から、教室でインターネットを利用できないように無線LANの接続を切っている。オクラホマ大学のキーラン・マレン教授は、物理学の講義中に学生のノートPCを液体窒素で凍らせ、粉々に破壊してみせた(別の学生がその様子を撮影してYouTubeに投稿したため、ネット上で議論が沸騰した)。

 ノートPCは有効な教育ツールだが、授業に退屈した学生の気晴らしツールでもある。ツイッターで誰かとつながったり、スポーツ専門ケーブル局ESPNのサイトで実況をのぞいたり、ネット通販で買い物したり。ネットに接続できなくても、ゲームソフトのソリティアやフリーセルで遊べばいい。

 こうした暇つぶし機能が教室で問題になっている。マレンは自身のウェブサイトで、ノートを取ること以外の目的でパソコンを使う学生がいるので、破壊のデモンストレーションをやったと弁明。おかげで学生たちは講義を真剣に聴くようになったと主張した。

考える時間が奪われる

 コロラド大学ボールダー校のダイアン・シーバー准教授(人文科学)も、授業に身が入らない学生たちが気になり、教室でノートPCを使っている学生と使っていない学生の試験の成績を比べてみた。その結果、使用組の成績は不使用組より平均11%低いことが分かり、シーバーは学生たちにパソコンの使用について再考を求めた。

 ラトガーズ大学のJ・P・クレイヘルは大学院の博士課程で学ぶ傍ら、09年秋から講義も受け持っている。そのため、この問題を2つの立場から考えられる。

 博士課程では1コマだけノートPC使用禁止の授業があったが、教える立場になって禁止の理由が分かったと、クレイヘルは言う。自分の授業にもノートPCを持ち込む学生がいたからだ。

「その学生は成績が少し落ちた。本人も気付いたと思う。学部生はまだ若いから(ネットの)誘惑に弱い。でも、基礎を学ぶ段階では授業に集中しないと」

 クレイヘルは今後、自分の授業でノートPCを使用禁止にするつもりだ。彼自身、学部時代に使っていたが、やはり成績が落ちた苦い経験がある。

 ノートPC禁止の動きは、特に法科大学院で目立つ。法科大学院は1年目の進級が難しいことで有名だ。授業の課題をよく理解して議論に参加しなければ、容赦なくふるい落とされる。

 ジョージ・メイスン大学法科大学院(ワシントン)のマイケル・クラウス教授は、5、6年前からノートPCの使用を禁止している。理由は授業中に学生が遊ぶからではなく、パソコンが「思考の代用品」になっているからだという。法概念を理解するにはよく考える必要があるが、教授やほかの学生が言うことをそのままパソコンに打ち込んでいる学生には、内容をきちんと理解して分析する時間がなくなってしまう。

 ミネソタ州のウィノナ州立大学で心理学を教えるキャリー・フリード准教授が2年前にノートPCが学習に及ぼす影響を調べたところ、学生の集中を著しく妨げていることが分かったという。学生たちも授業中の使用がマイナスになると実感していた。

 iPadのようなタブレット型端末はさらに学生たちの集中を妨げそうだが、禁止は難しい。教科書を読むのに使われれば、遊んでいる学生を見つけにくいからだ。

 禁止措置は大きなお世話だという声もある。デンバー大学(コロラド州)の学生新聞には、講義に集中できないのは本人の問題であり、「教授が大学生のお守りをする必要はない」という主張が載った。だが、高い授業料を払っている親の考えは違うだろうと、クレイヘルは言う。

「学生が落第すれば、教える側の責任も問われる。成績に手心を加えるつもりはないが、学生が自分で自分の足を引っ張るのを放っておくわけにもいかない」

The Big Money.com特約)

[2010年6月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中