寿命60年のソメイヨシノ、どう残す? 東京ミッドタウン「桜継承プロジェクト」の挑戦
旧防衛庁時代から継承した東京ミッドタウンの桜
<過去から未来へつなぐのは桜の木――東京ミッドタウンの「桜継承プロジェクト」は、「一度つくれば終わりではない」まちづくりを、六本木という都心から問いかけている>
日本企業のたとえ小さな取り組みであっても、メディアが広く伝えていけば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。そのような発信の場をつくることをミッションに、ニューズウィーク日本版が立ち上げた「SDGsアワード」は今年、3年目を迎えました。
私たちは今年も、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
「まちづくり」において、自然との共生は今や欠かせないテーマのひとつとなった。
緑地は気候変動を和らげ、生き物の多様性を守り、人々が集う場をつくる。都市の未来を左右する重要な要素であり、その価値はSDGsの観点からも高まっている。
世界に目を向けると、ニューヨークの廃線跡を緑の遊歩道に変えた「ハイライン(High Line)」や、ランドスケープデザインによって自然と都市の共生を実現したセントラルパークは、都市の余白に記憶と自然を重ねた象徴的な事例だ。
共通するのは、緑を単なる「飾り」ではなく、その土地の歴史や文化、人々の思いを抱き込む存在としてデザインする視点である。
東京・六本木に位置する「東京ミッドタウン」の緑地も、その思想を体現する一例だ。
かつて防衛庁があった地に、2007年、東京ミッドタウンは開業した。再開発に際して残されたソメイヨシノなど約40本の桜や、クスノキなどの高木を含む約140本の樹木はそのまま受け継がれ、今も春になると桜が街を彩っている。
しかし、桜の代表種であるソメイヨシノの寿命は約60年。引き継いだ桜の木々も、そう遠くない将来に寿命を迎えてしまう。
春が訪れるたびに人が集まり、心を和ませてきた風景が失われれば、それは単なる景観の変化ではない。この土地で積み重ねられてきた記憶が途切れることを意味する。
その危機感から、東京ミッドタウンは2013年、「桜継承プロジェクト」を立ち上げた。一体どのようなプロジェクトなのか。
桜がつなぐのは、景観ではなく「土地の記憶」

東京ミッドタウンは、「サントリー美術館」や「21_21 DESIGN SIGHT」などの文化施設をはじめ、ホテル「ザ・リッツ・カールトン東京」、商業店舗、オフィス、住宅、医療施設、緑地などが集約された大規模複合都市だ。
運営を担うのは、三井不動産株式会社の100%出資子会社、東京ミッドタウンマネジメント株式会社である。
三井不動産グループは、時を経るごとに魅力が増していく「経年優化」を街づくりの理念に掲げており、東京ミッドタウンもまた、年数を重ねるほどに「行きたくなる街」であり続けることを目指している。
その中核をなすのが、敷地内の緑地帯「ミッドタウン・ガーデン」と隣接する港区立檜町公園を合わせて約4ヘクタールに及ぶ広大な緑地空間だ。
東京ミッドタウン全体の敷地面積のうち約40%をこの緑地が占めており、六本木という都心にありながら、潤いをもたらすオープンスペースを形成している。
東京ミッドタウンは、「土地の記憶を残す」という開発理念のもと、古くからこの地に根付いていた樹木や植物をできる限り保存あるいは移植して残すことを心掛けてきた。
その姿勢を具体化した取り組みが、旧防衛庁時代から受け継いだ桜を未来へつなぐ「桜継承プロジェクト」だ。





