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アンジーの迫力全開『マレフィセント』

Jolie the Magnificent

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 やがてステファンは王になり、娘のオーロラ姫は呪いをかけられる。この後半のマレフィセントの描写は、ミュージカルの『ウィキッド』、アニメの『メリダとおそろしの森』『アナと雪の女王』に重なるところがある。典型的な女性の悪役(魔女、支配的な母親、雪の女王)も傷ついた複雑な存在で、弱さをのぞかせるのだ。

 ステファン王が少しずつ正気を失っていく部分はかったるく、コプリーの演技も大げさだ。でも映画が中だるみ気味になったまさにその時、美しい娘に成長したオーロラ姫が登場。ストーリーの中心は、幸せいっぱいのオーロラと孤独で冷たいマレフィセントとの関係に移っていく。

 2人の仲がどう深まっていくかはこの映画の核心だし、私も意表を突かれたので先は言わないでおく。これをフェミニスト的な作品と呼ぶなら(冒頭でその「視点をちょっぴり」と書いた)、それは女性間の愛情の複雑さと大切さを思い起こさせるからだ。あえて不満を言えば男性の登場人物、とりわけステファンの性格描写が浅いことだ。

 59年のディズニーアニメ『眠れる森の美女』と同じく、赤ん坊のオーロラ姫を育てる心優しくて騒々しい妖精3人も登場する(芸達者なイメルダ・スタントン、レスリー・マンビル、ジュノー・テンプル)。

あえて「おとぎ話」のままに

 マレフィセントに仕える樹木の生き物は『ロード・オブ・ザ・リング』の木に似た巨人の種族エントや、『ノア 約束の舟』の岩の怪物のよう。カラスから人間に姿を変えられるマレフィセントの従者ディアヴァル(サム・ライリー)は、こうした役柄にありがちなわざとらしさがなくて、変身シーンの特撮もまずまずだ。

『マレフィセント』はおとぎ話のジャンルをあえて飛び出そうとはしていない。それでもこの物語にはしっかりとした土台があるから、甘くて子供向けの脚色は成功している。

 映画を見ながら、私の8歳の子供を連れてこられたらよかったと思った。昨今は演出過多で上映時間が長く、暴力シーンの多い子供映画が多いから、こんな気持ちになるのは珍しい。

 監督はこれがデビュー作となるロバート・ストロンバーグ。演出過多で長時間の『アリス・イン・ワンダーランド』『オズ はじまりの戦い』のプロダクションデザインを手掛けた人物だ。

 しかしストロンバーグは今回、これまでの映画にはないものに恵まれた。原作の力強さが感じられる優れた脚本だ(『美女と野獣』『ライオン・キング』のリンダ・ウルバートン)。

 そして何よりもアンジェリーナ・ジョリー。巨大な翼で飛ぶ姿に違和感がない女優は、国連親善大使を務めながらブラッド・ピットと6人の子供を育てる彼女くらいだろう。

© 2014, Slate

[2014年7月15日号掲載]

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