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『Dr.パルナサスの鏡』が描く奇想天外ワールド

A Gift for Imagery

ヒース・レジャーの死を乗り越えて作品を完成させたテリー・ギリアム監督に聞く

2010年1月29日(金)13時52分
小泉淳子

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『未来世紀ブラジル』ではエンディングをめぐって映画会社と激しく争い、『ドン・キホーテを殺した男』では主演俳優のけがで製作が中止に追い込まる事態に。なぜかこれまで数々の不運に見舞われてきたテリー・ギリアム監督。最新作の『Dr.パルナサスの鏡』(日本公開中)では、ヒース・レジャーが撮影半ばで急死するという悲劇に作品の完成が危ぶまれたものの、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファースの3人を代役に立てて、見事な作品に仕立て上げた。
 
 パルナサス博士率いる旅芸人一座の出し物は「イマジナリウム」。人が密かに抱く欲望の世界を鏡の向こうで具象化してみせる。イマジナリウムに入った人は恍惚の体験ができるのだが、もしも悪魔のささやきに引き寄せられると、現実の世界には戻って来られない。そして博士には重大な秘密があった。1000年前に悪魔とある約束を交わしていたのだ......。

 奇想天外なストーリーで観客を引きこむギリアム・マジックは健在だ。いたずら好きの男の子がそのまま大人になったような表情を浮かべるギリアムに話を聞いた。


----レジャーのことばかり聞かれるのにはうんざりしてる?

 ああ(笑)。でもこれは彼のために完成させた作品だから、重要なのは1人でも多くの人が見てくれることだ。作品の評価がどうかなんて心配しちゃいない。それは見た人が決めればいい。

 ヒースが死んだときに製作をやめるという選択肢はなかった。既に撮影に相当なカネがかかっていたこともあるが、そんなことをすれば、ヒースの最後の作品が消えることになる。何か解決策を見つけなければならなかった。ひとたび頭に解決策がひらめくと、実現はそう困難ではなかった。(ジョニー・デップら)友だちに電話を掛けた。それだけだ。

 もちろんヒースが生きていたらどんな映画になっていたか、私も知りたいさ。もっと力強いものになっていたかもしれない。でもそれは叶わぬ夢だ。人生には障害がつきものだろ? 映画だってそうだ。

 ----トム・クルーズがレジャーの代役に名乗りを上げたというのは本当?
 
 トム本人と話したわけじゃないが、エージェントから連絡があった。彼が興味を示してるってね。ありがたい話だが、トムはヒースを知らない。だから断ったよ。ヒースをよく知っている人に代役を頼みたかった。この映画は私にとって家族のようなものだ。だから親しい人だけで作りたかった。トムに頼むのは、その流儀から外れることになる。

----ヒースが演じるトニーは得体が知れないものの、巧みな話術で人々をとりこにする。トニー・ブレア(元英首相)がモデルだとか?

 最初のヒントになったことは確かだ。ブレアは口先で何でも言う男だ。自分でもそれを信じていて、他人にも信じさせる。われわれをイラク戦争に引きずり込んだのも、彼が正しいと信じていたからだ。大量破壊兵器がないと分かったら、議論をすり変える。映画の中のトニーもそういう男だ。真実がどうかなんて知ったこっちゃない。彼にとって大事なのは他人に何を信じさせたいか、なんだ。

 ただしキャラクターは進化するものだ。たとえ最初の骨格はあるにせよ、いったんヒースが乗り移れば、どんどん変化する。他の監督の場合はそんなことはないのかもしれないが、私の映画ではあっちへ行ったりこっちへ行ったり。流れに任せている。

----他の政治家で映画になりそうなキャラクターは?

 いや、ないね。トニー・ブレアとイラク戦争には、心底頭にきていたんだ。ジョージ・W・ブッシュ? 彼は死んだろ? この世から消えたも同然だ。8年間の悪夢から覚めたら、彼はいなくなっていた(笑)。

 バラク・オバマは今の世界では最高の指導者だと思う。もっとも、彼が受け取ったのは「毒杯」だから4年間で何かを変えるのは不可能だろう。

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