最新記事
株の基礎知識

自社株買いでストップ高!「日本株」の評価が変わり始めた理由とは?

2023年6月5日(月)16時50分
佐々木達也 ※かぶまどより転載

【3】TOB(株式公開買い付け)

株式公開買い付け(TOB)で自社株買いを買い付ける場合もあります。

通常のTOBは市場価格に対してプレミアムを付けた価格で実施されますが、自社株買いのTOBでは市場価格より低い価格で実施される場合があります。これはディスカウントTOBと呼ばれ、大株主からの所有権移転を目的として、あらかじめ価格や株数を協議した上で行われるものです。

大株主による売却を前提とする点では立会外取引による方法と似ていますが、ディスカウントTOBによる方法では、価格を市場よりも低く設定できるメリットがあります。その一方で、準備や実施に時間がかかる点がデメリットです。

東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランド<4661>が2020年に、スポンサーである三井不動産<8801>からTOBで自社株を買い付けたケースでは、決議前の1か月間の平均株価から10%ディスカウントした価格が採用されました。

自社株買いを後押しする市場改革

東京証券取引所は、1月30日の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」と題した資料で、「我が国においては、経営者が資本コストや株価を意識していないケースが多く、経営者の意識改革やリテラシー向上、企業経営における自律性の向上が必要」であるとしました。

そのために、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れている企業に対しては、改善に向けた方針や具体的な取り組みなどの開示を継続的に求めていくべきである、という方針を表明しました。これが海外投資家などに高く評価されて、PBR1倍割れの割安株を買う動きにつながりました。

PBRは、純資産が多いほど低下します。言い換えれば、PBR1倍割れの企業の中には、純資産を配当や投資や自社株買いに回さずに寝かせたままにしているケースも多くありました。

こうした企業にとっては、是正に向けた圧力が一層強まったといえます。これまでも、株式持ち合いの解消の動きや「物言う言う株主」の台頭といった圧力はあったのですが、今回は「PBR1倍割れ」という明確なラインを東証が示すことで是正を強く促す動きが評価されています。

3月31日には、東証は、資本コストや株価を意識した経営を実現するための施策を求めるよう、上場企業に通知しました。こうした状況の改善が必要な場合は、具体的な取り組みを策定して株主に通知するよう求めています。

自社株買いと総還元性向

最近では「総還元性向」を引き上げると宣言する企業も増えています。総還元性向とは、企業が利益のうちどのくらいの割合を自社株買いと配当に当てているかを示す指標で、配当の支払い総額と自社株買いの総額を当期の純利益で割り算して求められます。

●総還元性向(%)=(配当支払い総額+自社株買い総額)÷当期純利益×100

配当と自社株買いをあわせた、企業の株主還元策全体の姿勢を示す指標といえるでしょう。当然、総還元性向を引き上げるという宣言は、株主にとってプラスの材料です。

また、配当は一度引き上げても、利益が落ちたときに減配すると市場からの印象が悪くなりますが、総還元性向を目標としておけば配当と自社株買いの割合を柔軟に設定できるので、経営陣としても目標としやすい側面があるのです。

(参考記事)急増する「自社株買い」 個人投資家のとるべき戦略を3つのポイントから解説

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中