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映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が「ほぼ」完璧な映像化だと言える理由

‘Project Hail Mary’ Is a Near Perfect Adaptation – Review

2026年3月23日(月)17時48分
ビリー・メリッサ (エンターテインメント記者)

これほどの制作費が投じられた作品でも、そのすべてが画面上で実感できるケースは多くない。しかし本作では、費やされた予算の1セント1セントが映像にしっかりと表れている。

撮影監督のグレイグ・フレイザーは、その手腕を存分に発揮し、プロダクションデザイナーのチャールズ・ウッド(Charles Wood)による美術を見事に映像として具現化している。

さらに、ロードとミラーは、制作においてグリーンスクリーンやブルースクリーンを極力使わない方針を採った。宇宙船は実際にセットとして組み上げられ、ロッキーもゴズリングが想像で演じる対象ではなく、実際に「そこにいる存在」として作り上げられている。

その結果、ロッキーとグレースの関係は非常にリアルに感じられる。ロッキーには顔がなく、甲殻といくつかの脚(腕)でしか感情を表現できない。それでも操演と声を担当したジェームズ・オルティス(James Ortiz)は驚くべき演技を見せ、観客が彼の感情を想像で補う必要はない。

ロッキーは原作同様に複雑で、温かく、そして強い存在として描かれており、オルティスはその命を丁寧に吹き込んでいる。この関係性が成立しなければ、どれほど優れた映像や実写効果があっても、物語の核となるメッセージは届かない。それがちゃんと機能しているのは何よりだ。

原作を熟知していても、ロードとミラーの映像化は観客の息をのませ、涙を誘い、そして安堵のため息を引き出す。単なる商業的な映像化ではなく、すでに完成度の高い原作に新たな体験を重ねる形で、物語とキャラクターに新しい命を吹き込んでいる。

上映時間の長さを感じさせないテンポで進みつつ、いくつかの場面ではもう少し余韻がほしくなる瞬間もある。それでも『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は見終えた後で、笑顔とともに一筋の涙がこぼれるような余韻が残る作品であることは間違いない。

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