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転機は『焼肉ドラゴン』...日本の演劇に魅了され、在日の物語を韓国に届ける女優コ・スヒの挑戦

2025年11月28日(金)17時17分
柾木博行(本誌記者)

日本作品を専門に上演

自身の劇団を立ち上げた彼女が上演作品として取り上げたのは、別役実のような大御所から土田英生、吉田小夏といった現在一線で活躍している劇作家まで、さまざまな日本の演劇である。

「私がやっている劇団は日本の作品を専門に上演する劇団です。実は、その劇作家さんたちが著名な方なのかどうか正直分からないまま作品を選んでいました。日本劇作家協会の『戯曲デジタルアーカイブ』というサイトがあって、そこに出演者の人数と上演時間を入れると、該当する作品の戯曲がワッと出てくるんです。それを片っ端から読みました。結構時間がかかりましたけど、その中で面白いと思ったものをピックアップして上演しました」

在日コリアンをテーマにしたオリジナル劇も

さらに、コ・スヒは日本を舞台にしたオリジナル劇も創った。『焼肉ドラゴン』で知った在日コリアンについて個人的に調べ、韓国で在日コリアンに関する作品を上演したのだ。

「『焼肉ドラゴン』の初演がきっかけで、(大阪のコリアタウン)鶴橋で在日の方々に出会いました。そこで感じたことが芝居に大きな影響を与え、自分にとってもプラスになったんです。それで改めて鶴橋でリサーチしたり、また済州島で海女をやっていたという方が日本にいらっしゃって、その方にもインタビューをしたりして、2024年に『海女ヨンシン』という作品を創りました。韓国文化芸術委員会が、毎年創作劇を選抜して上演するプロジェクトに選ばれて、2026年3月にはソウルの劇場街・大学路の芸術劇場・大劇場で上演することが決定しています」

今回の『焼肉ドラゴン』の公演は、2025年10月に新国立劇場小劇場で幕を開け、11月にソウルの芸術の殿堂(ソウル・アーツ・センター)、12月には福岡、富山を経て新国立劇場中劇場で凱旋公演も予定されている。たとえそれでフィナーレを迎えたとしても、演劇活動を大きく変えることになったコ・スヒをはじめ、そこに集った人びとの胸にこの作品は何かしら残していくに違いない。

彼女は今後の活動について次のように語る。

「劇団の活動に中心を置きつつも、私自身は女優なので、年に1本か2本は舞台に立ちたいという思いもあります。もちろん同時にやるのは大変だと実感していますが。劇団ではもっといろんなバリエーションの日本の作品を取り上げたい。自分が実際に見て感じたものをちゃんと韓国に持っていきたいと思っているところです。そして、オリジナル作品では、今後も在日の人びとをテーマにした舞台を作り続けていきたいと考えています」


コ・スヒコ・スヒ
1998年、劇団コルモッキルに入団し、1999年『青春礼賛』でデビュー。2023年に退団後、自身の劇団58号国道を設立、ナ・オクヒ名義で演出や翻訳も務める。主な出演に、舞台『ロミオとジュリエット』『豚小屋』『ヘッダ・ガブラー』、映画『親切なクムジャさん』『グエムル 漢江の怪物』『サニー 永遠の仲間たち』『幼い依頼人』、ドラマ『危機一髪豊年ヴィラ』『幻の王女チャミョンゴ』『魅惑の人』、バラエティ『魔女体力バスケットボール部』。
2007年東亜演劇賞演技賞、2017年ステージオーディエンスチョイスアワード最高の演劇俳優助演女優賞、 2024年第33回大韓民国新春文芸フェスティバル優秀演技賞および第24回二人芝居フェスティバルスペシャルアーティスト賞受賞。日本では、『焼肉ドラゴン』での演技で第16回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。

HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

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