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ハラスメント

「後輩を誘い2人だけ残って稽古」はNG? 演劇界「ハラスメント勉強会」が突き付ける根源的な問い

2024年12月5日(木)16時00分
取材・文=柾木博行 (本誌記者)

古元道広氏

古元道広(ふるもと・みちひろ) 舞台芸術団体で国内公演の他、のべ13カ国31都市でのツアー等を制作。その後はフリーで公演制作や舞台写真撮影、理事を務める舞台芸術制作者オープンネットワークで舞台芸術の持続的な創造活動に関する連続講座を手掛けている。並行して、ハラスメント予防とリスペクトについての勉強会を劇団や劇場、制作会社、芸能事務所等で実施している。上級ハラスメントマネージャー。 HISAKO KAWASAKI-NEWSWEEK JAPAN

冒頭の劇団昴、またミックスゾーンの公演でも勉強会の講師を務めた古元は、もともと舞台関係の制作者として長年活動、文化庁の海外研修制度で1年間ニューヨークの劇場等で学んだことなどが契機となって、舞台制作の環境改善に積極的に取り組むようになった。

現在はフリーランスの制作者として活動する傍ら、22年6月からはハラスメントについての勉強会の講師を務めている。勉強会を始めた理由や、開催したことの意義について聞いた。

──古元さん自身、勉強会を始めるようになる以前はハラスメントについてどういう認識でした?

「正直、意識は低かったと思います。理不尽に繰り返される千本ノックみたいな稽古が行われることや、ギャラが拘束や仕事量に見合わないような経済的な理由で舞台の活動を続けられなくなるのは、才能がなくてふるいにかけられるのとは違う。でも、そういうことに対して鈍感になっていたと思います」

ハラスメントをなくすことが目的ではない

──そういった問題をほかの舞台関係者たちと勉強していたそうですが、一歩先に進んで、今やっている勉強会を始めようと思ったきっかけは?

「ハラスメントについて学ぶうちにすぐ、通常の研修内容では現状に対応できないと感じました。舞台関係者にマッチングしにくい部分があったり、『芝居をつくるときにハラスメントが起きちゃうのはしょうがないよね』みたいな見方が根強くあった。そこで舞台芸術界に特化したハラスメント講習はないだろうかって思い始めて、当時は知らずにいたので、じゃあ自分で考えてみようと。

ベーシックな部分については一般的な資料を基にしていて、社会のルールとして明示しています。次に、その内容が自分たちの活動にどう繋がっているか、ハラスメントが演劇界で起きやすいとされる背景を解説しています。ただ、「講習」というと一時的に教える、教わるだけで終わってしまうように感じたので、私たち自身の問題として一緒に取り組んでいきませんかという思いから「勉強会」と呼ぶようにしました。この業界ならではの事情を皆で認識して、構造的な問題を共有していくことにも重きを置いています。

ハラスメントという言葉に注意が行きがちですが、ハラスメントだけをどうこうしようとしても根本的に解決しないし、それをなくすことが目的ではありません。創作環境を向上させるための手段、1つの出発点であって、そもそも高い芸術性をもった納得のいく作品を生み出すことが目的のはずです。勉強会の最初の頃はハラスメントに関する内容がやや多かったのですが、今ではリスペクトについて考える部分を増やしています」

──リスペクトについて考えるということの具体的な内容は?

例えば、先輩俳優に誘われて2人きりで居残り稽古をするケースはハラスメントだと思いますか? どんな印象をもちますか? というように、いくつかの現実的な場面について参加者に考えてもらいます。このケースでは、演出家に許可を得なくていいのかとか、労働時間の問題があったりする。予定以上の稽古が契約やギャラに関係すると考えれば、プロデューサーや制作の判断が必要かもしれない。

これは、芝居づくりに携わる人それぞれの「立場と役割」に対するリスペクトのお話なんです。もちろん俳優もその一人で、意欲や向上心は十分尊重されるべきですが、まず演出家、プロデューサーに相談しませんか? と。その人がえらいからとか権力があるからではなく、このような場合に相談を受ける職務についているからです。

そういう意識のないままに好き勝手に居残り稽古をすると、不均衡な力の行使や密室性などハラスメントの種を撒いてしまう可能性が出てきます。しかし、立場と役割を尊重することでその予防につながると言えます。居残り稽古じたいがダメということではありません」

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