最新記事

人民元

国際通貨って何?中国はまだ猛勉強中

念願かなって人民元のSDR構成通貨入りが決まったが、通貨の取引自由化や資本市場の透明化など課題は山積

2016年1月4日(月)11時30分
陳龍(ガベカル・ドラゴノミクス社エコノミスト)

現実は 今後5年で世界の外貨準備に占める元の割合が円やポンドと並ぶ4%に達すれば大成功だ karammiri-iStockphoto.

 IMF(国際通貨基金)は先月末、特別引き出し権(SDR)の構成通貨に、来年10月から中国の人民元を加えることを決めた。これで構成通貨は、米ドル、ユーロ、英ポンド、円、そして元の5つになる。これは間違いなく中国外交の勝利と言っていい。中国政府はかねてから元のSDR入りを求めていたからだ。

 ただ、目先の経済への影響は限定的だろう。SDR入りしたことで、各国の中央銀行は元建て資産を増やし、元での決済も世界的に増えるだろう。しかしそれが元の為替レートに影響を与える可能性は低いし、元がドルに代わる基軸通貨の地位に近づくわけでもない。

 何しろ中国の政府高官たちは、まだ国際通貨の管理方法を猛勉強しているところだ。

 そもそも元がSDRの構成通貨になったことを、過大評価するべきではない。SDRは国際資本市場が未発達だった69年に、外貨準備の不足を補うために設置された。だがここ数十年は、IMFと加盟国間の取引単位として使われているにすぎない。

 SDRは市中に流通しているわけではなく、もっぱら中央銀行が保有・使用するだけで、その量も多くない。SDRが世界の外貨準備に占める割合は、わずか2%だ。このため構成通貨入りを目指す国もほとんどなく、15年前にユーロが導入されて以来、その構成に変化はなかった。

 それでも中国がSDR入りを強く望んだのは、その象徴的意味合いに引かれたからだろう。実際、ドル、ユーロ、ポンド、円は、世界で最も重要な通貨だ。世界で1、2位を争う経済大国の中国としては、元がSDR構成通貨という「肩書」を得ることには、重要な意味がある。

 元のSDR入りに、経済的な意味がないわけではない。かねてから中国は、国内の経済・金融の改革を実行に移すのに苦労してきた。だが今年は、SDR入りを目指すことを理由に、3つの金融改革を実現できた。

 第1に、中国人民銀行(中央銀行)は外国の中銀に対して、元建て債券の取引規制を撤廃した。SDRを保有するのは各国の中銀だから、元がSDR入りすれば、これら中銀はSDRとの交換に備えて元建て資産を積み増す必要がある。債券市場の開放はそのための布石だ。

 第2に、中国財務省は10月、3カ月物国債を初めて発行した。SDRの金利は、構成通貨の3カ月物国債の利回りに基づき決定される。このため元がSDRの構成通貨に採用されるためには、中国も3カ月物国債を発行することが不可欠だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中