最新記事

人民元

国際通貨って何?中国はまだ猛勉強中

2016年1月4日(月)11時30分
陳龍(ガベカル・ドラゴノミクス社エコノミスト)

 第3の最も重要な改革は、元の基準値を実勢レートに近づけたことだ。元の対ドルレートは、中国人民銀行が決める基準値を中心とするレートと、実勢レートの2種類があり、2つの間にギャップが存在した。そこで中国人民銀行は8月、前日の市場の終値を参考基準値とすることで、このギャップを縮小した。

ドルの地位にはまだ遠い

 外交的な成果や、金融改革以外にも、元がSDRの構成通貨になることで中国が得る恩恵はある。まず、外国人投資家における元の保有が広がり、元の国際化が期待できる。

 中長期的には、各国の中銀の外貨準備で、元の占める割合が高まるだろう。ただしそれはSDR入りによって自動的に起きることではなく、世界経済における中国の位置付けの高まりと、国内の債券市場のさらなる開放を反映したものだ。

 現在、世界の外貨準備に元が占める割合は1%にすぎない。これは中国経済の規模を考えると、著しく低い水準だ。中国経済は世界のGDPの約13%、世界の貿易の15%以上を占める。

 IMFは今回、SDRにおける元の構成比率を10.92%とした。ポンド(8.09%)や円(8.33%)を上回る比率だ。しかしだからといって、各国の中銀が直ちに外貨準備の10%を元建てにするわけではない。

 金融のテクニカルな問題として、元のSDR入りによって各国の中銀が元を入手する必要があるのは、IMFからの借り入れ(SDR建て)の為替リスクに備えるためであり、その規模は最小限(約70億ドル分)にとどまるだろう。

 より現実的には、向こう5年間に世界の外貨準備に占める割合が、円やポンドと同程度の4%に達すれば大成功だろう。つまり、元はこれまでよりも世界(特にアジア)で広く使われるようになるが、ドルのレベル(約64%)には程遠い。

 世界の外貨準備の4%ということは3000億ドル程度だが、それが5年で実現するとなると、中国にとっては毎月50億ドルの資本流入になる。これは現在中国の輸出業界がもたらす外貨獲得量の5%にも満たず、外為市場の短期的な市場心理にも、長期的な資本流入にも、まともなインパクトは与えられない。

 実際、元の為替レートは、先進国の金融政策に大きく左右されているのが現状だ。アメリカが近く利上げに踏み切るとみられるなか、EUは主要政策金利の据え置きを決定。ドルはあらゆる通貨に対して強含んでおり、元はさらに下げ圧力にさらされている。中国人民銀行が元高・ドル安の基準値を設定しても、効果は一時的で、今のところ元は対ドルで6.40元前後と3カ月ぶりの安値水準にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国経済工作会議、来年は財政刺激策を軸に運営 金融

ビジネス

EU理事会と欧州議会、外国直接投資の審査規則で暫定

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ノーベル平和賞のマチャド氏、「ベネズエラに賞持ち帰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中