最新記事

世界経済

ウクライナ債務不履行が招く危機の連鎖

対外債務問題を引き金に金融システムが崩壊すれば、世界に深刻な影響を及ぼしかねない

2014年3月10日(月)12時04分
マイク・オベル

崩壊の足音 ウクライナ南部クリミア半島の町ケルチで、銀行の前に並ぶ市民。民間の銀行でも預金の引き出しが急増している Thomas Peter-Reuters

 野党勢力が激しい反政府デモでヤヌコビッチ大統領を追放し、80人以上の死者を出したウクライナで、欧米寄りの北部・西部とロシア寄りの南部・東部の間に分裂の危機が忍び寄っている。

 だが分裂を回避できるかどうかは、重要かつ関連する2つの問題の一方にすぎない。もう1つの問題は、金融システムの崩壊をいかに防ぐかだ。

 ウクライナの対外債務問題の見通しは、政治情勢と同じくらい暗い。急いで数百億ドルの金融支援を行わなければ、ウクライナの中央銀行の外貨準備は底を突き、外貨建ての国債はデフォルト(債務不履行)することになる。そうなれば、ロシアやEU諸国を通じ、影響は世界に及ぶ可能性がある。

 ウクライナの短期対外債務は、政府と民間を合わせて約660億ドル(うち460億ドルが企業債務)に上る。だが、国の支払い能力の目安となるウクライナ中銀の外貨準備は約150億ドル。返済額の2割しかカバーできない。民間銀行でも資金流出が続き、わずか数日で預金の最大7%が引き出されたという。

ルーブル暴落の危険性

 政府債務だけを見ても、今年中に返済しなければならない対外債務は元利合わせて62億ドル。加えて、国営ガス会社ナフトガスがユーロ建て社債16億ドル分の償還を9月に控えているほか、ロシアの国営ガス大手ガスプロムに16億ドルの未払い金もある。

「合わせると、ウクライナ政府は今年中に94億ドルの外貨が必要になる」と、ロンドンのコンサルティング会社、キャピタルエコノミクスはみる。

 それだけではない。経常収支も急速に悪化している。ウクライナの今年の経常赤字は130億〜140億ドルと、それだけで外貨準備を帳消しにする額になる見込みだ。

 通貨下落も追い打ちをかける。通貨フリブナは2月だけで18%下落した。ウクライナの外貨準備が減れば減るほど通貨は下落し、対外債務の支払いにますます苦しくなる悪循環だ。

 EUは3月5日、既に向こう数年間に少なくとも110億ユーロ(約1兆5400億円)の金融支援を行うと発表。アメリカやIMF(国際通貨基金)も支援に向けて動き始めているが、それだけでは到底カバーしきれないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル経済学賞、米大教授3氏に 社会制度と繁栄の

ワールド

中国、台湾の実業家と議員に制裁 「分離主義」行為で

ワールド

台湾独立は台湾海峡の平和と相容れず=中国外務省

ビジネス

中国9月貿易統計、輸出は前年比+2.4% 5カ月ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米経済のリアル
特集:米経済のリアル
2024年10月15日号(10/ 8発売)

経済指標は良好だが、猛烈な物価上昇に苦しむ多くのアメリカ国民にその実感はない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思っていたが......
  • 2
    「メーガン・マークルのよう」...キャサリン妃の動画に対する、アメリカとイギリスの温度差
  • 3
    性的人身売買で逮捕のショーン・コムズ...ジャスティン・ビーバーとの過去映像が「トラウマ的」と話題
  • 4
    冷たすぎる受け答えに取材者も困惑...アン・ハサウェ…
  • 5
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 6
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリ…
  • 7
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 8
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 9
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 10
    メーガン妃とヘンリー王子は「別々に活動」?...久し…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた「まさかのもの」とは?
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 5
    2匹の巨大ヘビが激しく闘う様子を撮影...意外な「決…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思…
  • 8
    ウクライナ軍がミサイル基地にもなる黒海の石油施設…
  • 9
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 10
    戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイス…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 8
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
  • 9
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中